第53話 指摘

それに私達は今日この別荘を去る。犯人は続行不可能なので急遽代役をたてて、今日中に答え合わせをしなくてはいけない。


「あ、はい。わかりました。確認する時間下さい」


新司会の月山さんとスタッフさんで急遽ミーティングすることとなり、またしても私達は休憩する事になった。私達としてもこのまま撮影に入れるようなテンションではないので助かる。

慌ただしく動くスタッフに、まだまだ混乱しているスタッフ。これから本当に月山さんが司会になるのだろうか。最後まで来たのだから雨宮さんのしたことには目をつぶって最後まで撮るべきだったのでは?

でもこれからどうなるか不安定な状況で撮影させるより、代理を決めた方が逆に落ち着くかもしれない。


「大変な事になっちまったな……」


クロさんが呟いた。それに結城君は反射的に謝る。


「すみません、僕が指摘したせいで」

「あぁ、謝んな。どのみちこの放送が世に出たらそのうち封筒の違いがバレてネットでやらせだって拡散されんだから。早くに指摘して助かったんだよ」


クロさんは結城君が気にしないようフォローする。もし結城君が指摘しなかったら視聴者が不正に気付いたかもしれない。その時にやらせだなんだと言われる方が番組として困るだろう。結城君は絶対に悪くないし、大変な事にしたのは雨宮さんだ。


「雨宮さんがhikariちゃんの部屋を漁ったってことでしょ? ならおおごとになってもしゃーないよ。好感度めちゃ高かったのに本当に裏切られた気分よね」

「真白が言ってくれて月山さんも動いてくれたから証拠も掴めたんだよ」


ふらみんさんと太陽さんも結城君へのフォローを続ける。確かに雨宮さんは無実を訴え続けるかもしれなかった。スタッフも警察ではないから捜査はできない。しかし結城君には特別な記憶力があり、犯人である証拠を見つけることもできた。それを強く言える先輩俳優月山さんの存在も大きい。


「あんなのと同じ気持ちだったなんて」


青い顔のまま、青柳さんは私だけに聞こえるくらいの声で呟いた。名声のため、という動機は犯人と青柳さんは同じだ。悪事は働かなかったとしても、同じ動機で事件を起こした犯人を見てしまうとショックは大きい。


いざ事件が解決してみると、私はこんなに良い人達を疑ってしまうなんて、と思う。結局犯人はクリエイターたちではないしスタッフも一切関係がなかった。


「クリエイターさん達、封筒開封の場面から何事もなかったかのように続きできる?」


途中月山さんが軽い調子で尋ねる。ひとまず雨宮さんのことはなかったことにして、クリスタル発表から撮影続行するらしい。

何事もなかったかのように、というのは難しいけれど、それは事件に触れるなということだろう。皆は頷いて返事をした。


「できるそうです。あとは編集でうまくやりましょう。だいじょうぶ、俺はちょうど仕事ない時なのでいくらでも対応できますよ」


スタッフ全員を励ますように言う月山さんを神俳優だと思う。スミレが推すのも納得で、私も推したくなってきた。


皆が席につき、場を調整して撮影は再開する。立ち位置を事件前の状態に戻してやり直しだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る