第28話 シーリングワックス

「なんだろう、これ。印鑑? にしては大きいような」

「あぁ、それシーリングワックスのだろ。封筒にロウソク垂らしてロウソクが固まらないうちに押すやつ。俺も中二病の時に欲しくて見てた。手紙出す相手なんていねーから買わなかったけど」

「へぇ。そんなものが。模様は……王崎先生の花押をもとにしたものかな?」

「カオウ?」

「サインみたいなものです。あぁ、そういえばクリスタルの答えがした入ったの封筒にも貼ってありましたね」


結城君が聞いてクロさんが答え、クロさんが聞いて結城君が答えた。さすがお金持ちでセンスがあるからか、封筒を作るにもお洒落で手間のかかりそうなものを使う。


ここで集中できたせいか、持ち込んだぶんの宿題はようやく片付ける目処がたった。

結城君の美術解説&クロさんの監修もさすがプロとして働いているだけあってわかりやすくなっている。

これから帰省だからその時に宿題を終わらして家に持って帰り、別荘に戻ってきてから解説の最終確認しよう。そしてスタッフさんに見せて時間をもらう。なんとか企画放送中には間に合うだろう。





■■■





宿題がなんとかなりそうと思ったら次は一時帰省と登校日だ。そのための荷造りが大変だった。一ヶ月もこちらで暮らすというのなら相当な量のものを持ってきていたし、こちらで買ったものなどで増えた。そこから家に一泊しまたここに戻って、夏休みギリギリに帰る。

なのでその中から一泊分必要なものと、最終日に荷造りしやすいよういらないものを持って帰らなくてはいけない。


出来た宿題に両親祖父母友人へのお土産、こちらに来てからふらみんさんにいっぱい服を選んでもらったからもう着なくなった服や、思ったよりも必要のなかった熱中症対策グッズも持って帰ろう。


それらをトランクに詰めていると、スマホに通知があった。


『今仕事が終わったところ。ガゼボで会えない? できれば二人で』


青柳さんからのメッセージだった。


青柳さんか……

仲が悪いわけじゃないけれど、二人で話すような仲でもない。私はデジタルの絵の仕事からふらみんさんやクロさんと似た悩みを共有して仲良くなったし、同じ高校生である結城君とも仲良くなった。太陽さんはそれらのカテゴリとは違うのに仲良くなったけど、あの人はカテゴリとか関係ない自由な人だし。

そんな中で青柳さんはいつも笑顔で人当たりはいいけれど、だからか素が見えない。私達はテレビに出るから少しは演じて素を隠している。でも長く共同生活を送れば素が見えるはず。なのに青柳さんにはそれがなかった。

そもそも年が10は違うのだから、二人だけじゃ話も合わないし。まさか私だけにおいしいお菓子をあげるつもりでもないだろう。


……まぁいいか。ガゼボはカメラがないとはいえ、だからこそプライベートの話をしたいとしたらそこしかない。もしかしたらあの人の彼女が私のサインを欲しがっているとかかもしれないし。


荷造りはほどほどに、私はガゼボへと向かった。そこには穏やか顔した青柳さんがいた。ちょっと疲れたようにも見える。

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