第29話 おねがい
「来てくれてありがとう。これ、仕事帰りに見つけたからおみやげ。hikariちゃんだけにあげるから内緒ね」
「おいしいお菓子を私だけにくれるんですか?」
「え? あぁ、うん。そうなるのかな」
しまった、頭の中のことがそのままもれてしまった。いやおかしいだろ、おいしいお菓子を私だけにあげるなんて。
渡されたのは小さな紙袋に入った小さな箱。パステルカラーのそれは多分オシャレな洋菓子。都会で売ってるマカロンとかカヌレとかだろう。そんな珍しく高価なものを私だけにこっそり渡す理由。なにか要求がある。
「プレゼントしたのはhikariちゃんにお願いがあるからで、どうかこの事は内密にしてほしい」
「それは皆の前ではできないお願い、ですよね……」
「うん。君が知っているクリスタルの答えを教えてほしいんだ」
無意味に熱っぽくお願いされたけれど、それはできないお願いだった。だって私はクリスタル探しでまったくつかめてはいない。
でもわかったのは青柳さんがどうしても後継者になりたいということだ。
そういえば私達は『クリスタルなんてわかるはずがないし、興味ないよね』とは言ったし聞いたけど、逆の人は見たことがない。でもその逆の人はいるだろうし、隠れているものだ。
クリスタルを見つけて王崎晶の後継者になればこの別荘をはじめ莫大な権利が与えられる。欲しくて当然だし、そんな欲望はなるべく隠しておきたい。
でもまさか青柳さんがそれをさらけ出してまで聞くのが私なんて、人選を間違っている。
「……それならクロさんや結城君に聞いた方がいいと思います。二人の方が絞れてますから」
「あの二人は違うじゃないか!」
突然、別人になったように青柳さんは怒鳴った。しかしすぐそんな自分に驚きつつ謝る。今、彼の素がやっと見えたかもしれない。なのに親しみはまるでなくて、怖い。
「ごめん。でもこの企画は君が勝つように仕掛けられている。クロ君や結城君でもなくて、君なんだ」
「仕掛けられているって、やらせってことですか?」
今までだってやらせと言えなくもない事はあった。雨宮さんのいるところに絡みに行くとか、スタッフの指示でやったことだ。でもさすがにクリスタル探しでやらせをするとは思えない。私は何も聞いていない。
「僕は王崎先生が自分でCrystalを企画していた頃を知っている。一年前だ。その時から参加者には君の名前があった。当時君はまだ無名だったはずなのに」
「一年前……」
それを聞いて、私は一瞬背筋が冷えた。一年前というと、私はあいすくりんうさぎを描いてはいた。ただしブームに火がつく前。高校一年生でスタンプを売り出した頃の話。
その頃から目をつけていたというのは、王崎晶にはあまりにも先見の明がある。
でもありえなくはないのか。奥様の登喜子さんが初期からのファンだとしたら……という説もちょっと無理がある気がした。おばあさんがスタンプのキャラを知っているもの?
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