第27話 よくわかる西洋美術

クロさんに説明をしながらクロッキー帳を開く。いきなり目に入ったのはこの間の簡略化あいすくりんうさぎ。それから不思議な絵がいくつか続く。この間のうろ覚えイラストゲームで使ったクロッキー帳だからだ。青柳さんか太陽さんかとの専門的なやり取りも絵にしてあった。

で、ここからが私にあてたもの。絵の簡単な模写と説明。


「これアレだよね。美術の教科書に絶対あるやつ。落ち穂拾いっていうんだ」

「うん。ジャン=フランソワ・ミレー。バルビゾン派の」

「そのへんは難しげだから省こう。でもこの貧困ってテーマはいいと思う」


ここから細かに修正して、わかりやすく面白いかんじにしよう。しかしクロさんが私のクロッキー帳を横から奪い取る。


「それさ、俺が見てから結城に渡すからそれまでhikariは宿題に集中しとけ」

「え、でも私が提案した事ですし」

「お前仕事請けすぎなんだよ。そんで学業もちゃんとしやがって。そりゃ課題制作もクリスタル探しもできるはずねーわ」


クロさんからのありがたい申し出。けど自分がやろうとした事だし実際解説でメインで動いているのは結城君だし、と言いかけたところで結城君が付け足す。


「僕もそう思ってました。hikariさん、イラストの仕事もスタッフさんみたいな仕事もしているし」

「普通の高校生はスタッフの気持ちここまで読めねーよ。で、スタッフも素人の高校生使ってんだから多少は諦めてるだろ。お前がやるべきことは番組の最低限の企画と、番組が批判されないよう学業優先にすることだ」


クロさんの言葉は正論だった。確かに私はこの生活で常にどう動けばいいかを考えている。スタッフが期待しているような動きをして、そこを撮りやすいようにして。でも確かにそれはスタッフのする仕事だ。

そんな事より課題制作が間に合わないほうが困るし、私が怠惰な生活を送って批判されるとしたらこの番組スタッフだ。だから私は最低限のことをしなければならない。


「……ありがとうございます」

「俺は前々から学業切り捨ててるからな。そういうのはまかせろ」

「いや、切り捨てるのはよくないですよ……」


クロさん、ひねくれてて自虐的でどうかと思う所もあるけれど、普通にいい人なんだよな。

こう言ってくれた事だし宿題に集中する。隣では二人があーだこーだとわかりやすい説明を組み立てていく。

その途中結城君が立ち上がる。


「多分ここに西洋美術史の本があったと思います。……あれ?」


結城君は本棚に近付いてしゃがみ込む。そして何かを拾い上げた。

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