第26話 進行具合

やはり雨宮さんは次にクリスタル探しの話題を出す。


「ではクリスタル探しはどうでしょう?」

「まぁ、俺なりに考えてヤマはってそこから選ぶつもりっす」

「僕は風景画から選びました」


やっぱり二人は順調だった。私の焦りは増す。それに雨宮さんは気付いた。


「hikariさんは……秘密でしょうか?」

「いえ、まったく掴めていないだけです」


いっそ笑い飛ばしてしまいたいところだけど、まったく笑えない。こんなに自分を情けなく思う事はない。まだ締切前だとしても、こうして今は何もできていないのだから。本当にこの夏を気楽に過ごしていたのだ。

とくにクリスタル探しは私としては諦めていたものだけど、こうしてカメラで撮られている以上仕事だ。仕事ができないとは情けない。どうかこの場面が使われませんように。


「大丈夫、きっとこれからですよ。私もこれから倉庫に探しに行くところなので」


雨宮さんはそんな慰めを言って隣の未発表作品の多い倉庫へと向かう。私はそこでスタッフさんを見るけれど、もうついていかないでいいようで、この場にとどまれとサインが送られた。そっか、宿題すると言ってここに来たのなら、追いかけるのは不自然だ。このままここで宿題をしよう。

雨宮さんが倉庫へと向かい、それにぞろぞろとカメラやスタッフさんがついていった。


「交流って、あんなんでいいのか……」

「交流している図は撮れましたから。あとは雨宮さん一人の方が絵になりますし」


クロさんはどっと疲れた様子だった。カメラに撮られながら日常生活を送ることには慣れたけど、注目されてる芸能人と一緒に映るとなるとまた別の話だ。でも企画的に重要な話題も雑談は十分にした。雨宮さんも一人(とスタッフさん達)で探す時間は欲しいだろう。

私はうだうだと宿題を広げた。


「hikariさん、これ、例の企画。忙しそうだけど目を通しておいてほしい」


結城君が今出していいのかと不安そうに差し出したのはクロッキー帳だった。このあいだ、うろ覚えお絵かきで使ったやつを再利用している。それにクロさんは注目した。


「ん? なにそれ?」

「結城君に有名な美術作品について解説してもらう企画を二人で練ってて。でも結城君そのままの解説は教科書ってかんじなので、私がおもしろポイントを探して文面を簡単にしてます」

「お前、そりゃスタッフの仕事じゃねぇの?」

「スタッフさん、だんだん忙しくなってますし。使われるかどうかもわかりませんから」

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