第38話 事件発生
「この待ちあわせに空き時間があったからファンシーショップみたいなところにも寄ったんだ。それでほら」
結城君は鞄からファンシーショップの包装紙にくるまれたそれを私に見せる。包装紙からはあいすくりんうさぎのシャープペンが出てきた。
「えっ、買ってくれたの!?」
「うん。最初はどんなかんじか見たかっただけだけど、並んでいるのを見るとなんだか嬉しくなっちゃって」
わざわざ結城君がファンシーショップに行っただけで驚きなのに、さらには買ってくれるとは。最初は見たことなかった程なのに。
「ええ、嬉しい……」
「プレゼント用ですかって聞かれて、自分用だってちゃんと言ったんだ」
「ふふっ」
その様子を想像するとつい笑ってしまう。結城君、意外に行動力があって普通行かないだろってところもずんずん進むんだもんな。そういうところが面白い。
そんな話をしていると駅の外、バス停近くの車道に番組の車が止まっていた。少し時間より早いそれに疑問を思いながらも駆け寄る。
車の中にはディレクターの男性スタッフ、井出さんがいて、私達に鋭く声をかける。
「緊急事態なんだ、二人共急いで乗って!」
「え、でもまだクロさんが……」
「クロ君には後で必ず迎えを寄越すから、早く!」
一体何があったのか。井出さんの顔色は悪く尋常じゃない様子だった。スタッフの中でも偉い方の井出さんが動くような事態、とこちらも深く考えずに車に乗ってしまう。そして本当にクロさんを待つことなく車は別荘へと進んだ。
「hikariさん。落ち着いて聞いてほしい」
「あ、はい……」
運転をする井出さんはなんとか冷静になろうとしているようだった。緊張が伝わってくる。でもその緊急事態が、その中心が、私?
「hikariさんの留守中、宿泊棟の君の部屋に空き巣が入ったんだ」
「え……」
「部屋が荒らされていて、何かを物色したようなんだ。今すぐ部屋を確認して、何か盗まれていないか確認して欲しい」
どくんと心臓が嫌なかんじに大きく動いた。
空き巣って、なんでこんなお金持ちの別荘だらけなのに、私の部屋なんか狙うの?
「あの、警察は……?」
結城君が不安そうに尋ねる。そうだ、警察。
「猿や野生動物が入り込んだ可能性もなくはなくて……すまない。番組はできれば警察に通報したくないんだ」
井出さんは一瞬ごまかしたものの、それはよくないと思ったのか正直に伝えてくれた。警察沙汰は避けたいということだ。それでもこうして急いで対応してくれるあたり、ありがたいと思えてしまう。実際にあんな山奥なら動物が入り込んでもおかしくはないし、私が散らかしたと思われていた可能性もある。
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