第5話 本館一階
これで自己紹介は終了した。場面は一度カットがかかる。とはいえ、このカットとはメインのカメラの話で他のカメラは私達を撮り続けている。
「これから休憩と案内になりますー。そして一旦司会の雨宮さんが映画のお仕事のため戻られますーお疲れさまですーありがとうございましたー」
スタッフが全員に聞こえるようそう声をかけると、全員で雨宮さんに向かって一斉に感謝や労いの言葉が飛んだ。
雨宮さんは今度、王崎晶の自伝的映画に王崎晶役として出演する。だからこの企画で司会として選ばれたのだ。
「お疲れ様でした。クリエイターの皆さんの課題作品やクリスタル探しも楽しみにしていますね」
カメラが回っていなくても雨宮さんはあたたかい言葉を残して帰っていった。若手俳優のこの人は忙しいので今日と最終日にのみやってきて司会をする。それとナレーターもする。ずっとここに滞在するわけではない。
「ではクリエイターの皆さん。これから別荘内の案内と簡単な説明をしますので」
私達は椅子から立ち上がり若い男性ADの宇野さんの元へ向かった。
「まずここは食堂です。朝昼晩の三食出します。たまにお弁当形式のものもありますが、なるべく時間を合わせてほしいし、いらないときは早めに言ってください。あと集合する時、特に指定がなければここに集まると考えて下さい」
広い食堂。その奥には大きなキッチンがある。過去大勢がここで絵を描いて生活していたというから、私達とスタッフが同時に食べていけるだけの施設だ。
「カメラですが、本館には定点カメラが常にあると考えて下さい。カメラ位置を知りたい人には後で教えますので。相談があればカメラ持ったスタッフも動きますし、カメラを貸し出しもしていますし、スマホなどでも各自気軽に制作風景や日常を撮っておいて下さい」
食堂を出るにあたって大事なのがカメラの話だ。リアリティーショーはどこでいい場面に出会えるかがわからない。なので皆が接触するであろう本館にはほぼカメラが仕掛けてある。
「カメラがないのは生活空間である宿泊棟のA棟B棟と野外です。番組的に見せられない、見せたくない話をする時はそちらでマイクをオフにして下さい」
もちろんリアリティーショーだといってもオフは存在する。ずっと撮られているというのも気が滅入るし、メリハリをつけて万が一の失言を防ぎたいからだ。
「二十歳以上の方は飲酒喫煙に関して反対はしません。ただ、二十歳未満の方がいる場ではご遠慮下さい」
前を歩く青柳さんが『やった』と声を上げた。彼一人だけアラサーだっけ。高校生と混じってもあまり得られるものはなさそうだし、お酒がないとつまらなさそうだもんな。
「こちらは油絵用の部屋となっております。油絵など、汚したら大変なこってりした画材を使う時に使ってください」
食堂の隣は油彩室。広くほぼなにもない空間なのに壁や床は絵の具だらけだ。大きな窓から面した庭にすぐ出られるようになっていて、日当たり風通しが良さそうだ。
部屋の隅には段ボールが積まれている。
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