第15話 調子に乗ること

ふらみんさんと私がなにかと気を使っているのはメディア慣れしているからでもある。それに私達は芸術に関してはあまり知らないし、作品を作っている所もタブレットを操作しているかんじで絵にならない。だから見た目も作業姿も絵になる結城君まわりを盛り上げて、番組全体を盛り上げたいのだ。


「そもそも今の時代って、上が見えすぎて自分と比べてしまって諦める人が多いんだよ。続ける事が難しい時代だと思う。だから美術を昔からやってたような、昔から頑張ってた人にスポットライトを当てたほうがいいよ」


ふらみんさんの言葉はすごく深い言葉だった。私は美術を学んでいた人を尊敬はしていたけどそこまで考えたことがない。確かに自分が絵に関わっている。けれど結城君のような人を見て自分はああはなれないと諦めてしまっていたと思う。

今はネットのおかげで若いのにすごく上手な人の絵がいっぱい見れてしまう。すごいけど、それだけに自分と比べてしまう。『これだけ上手い人がいるなら自分が続けたってプロにはなれないな』と。

その考えは蔓延するとかなりまずいことになるだろう。誰も挑戦しなくなってしまうのだから。


「わかるなぁ。僕、ネットあんまりしなかったけど、しなかったからこそここにいられるんだと思う。小中高とずっと自分が一番絵がうまいと思ってた。でも大学で自分よりうまい奴をいっぱい見て……いや、あれはやばかった。調子乗ってたから余計にメンタルが死ぬかと思った」


青柳さんが苦い顔して語る。きっとネットがなかった頃はそんなかんじだったんだろうな。自分の実力と同世代の実力を知らないから調子に乗れる。でも今の人はその調子に乗る事さえできない。

青柳さんはそれから頑張ってプロの画家になったのだから、調子に乗る事だって大事な事だ。

これから美術の普及を考えるなら、私みたいなぽっと出の存在じゃなく昔から描いていた人を映すべきだ。そうすれば視聴者だって彼らのように続けてくれるかもしれない。


「ふらみんちゃんとhikariちゃんはクリスタル探し、目安ついたー?」

「いえ、まったく。恥ずかしながら今回初めて王崎晶を調べたくらいで」

「私もです……」


太陽さんに聞かれ、私達は正直に答える。クロさん青柳さんも私達から目を反らしていたからきっと何もつかめてはいない。


「じゃあヒント教えてあげる」

「ぜひ!」


真っ先に食いついたのは聞かれていないクロさんだった。意外だけど、クリスタルを当てたいんだ。

太陽さんは自由に振る舞いながら何もかもを見透かしているように見える。実際大学生で勉強もしたのだろうし、今から答えがわかっていたって不思議じゃない。

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