第16話 クリスタルのヒント
「事前の書類でクリスタルは(未発表作品も含む)って書いてあったよね。だからこのアトリエにある未発表作品だよ」
「それはなぜですか?」
「王崎晶がそういう人だから」
きっぱりと、太陽さんは確信を持って言っているけど、私達からしてみればふわふわした推論だ。なにせ性格が理由なんだから。
見かねて青柳さんが解説する。
「王崎先生は昔、メディアを嫌っていたんだ。なのに十数年前くらいから熱心にメディアでインタビューに応じたり、普及活動を行っていたんだ。この企画だって先生が亡くなる前に企画していたほどだよ」
生前の指導を受けた青柳さんがいうなら間違いない。確かに私は作品を知らなくても、王崎晶の姿はテレビで見たことがある。ワイドショーか何かでコメンテーターとして呼ばれていたような。
そんな姿、メディア嫌いと聞いていたら驚きだ。
「考えてみてほしいんだけど、おれたちが傑作……クリスタルを見つけたとして、『作品集の中から見つける』と『倉庫の中から見つける』で、どちらがテレビ的に盛り上がると思う?」
「『倉庫の中から』ですよね。ここにはカメラがいっぱい仕掛けてあるから、見つけた瞬間を後で探して編集できる」
「そう。これでかなり作品を絞れたと思うよ」
太陽さんの質問に私は答えて、それはあってたようだ。王崎晶は意外にもテレビ映えを考えている。だから映えるようにクリスタル探しをすればいい。それは私やふらみんさんの得意分野で、美術を知らなくてもこの場でやっていける。
まあ、それでも膨大な作品数なんだけど、発表作品でないとわかっただけ上出来だ。
「自分なりの傑作なんて他人にはわからないものだよ。人間は沢山の感情で生きているのだから、それを絵にしたって見る側はそれをすべて読み取れるわけじゃない」
寂しそうに太陽さんが言って、図鑑をしまった。そして資料室を出ていった。
芸術を学んでいる太陽さんですらそう言うのだから、絵だけで人を理解するというのは難しいことなのだろう。
青柳さんも重くため息をつく。
「……まぁ、それでも果てしない探しものだよね。スタッフも僕らが当てるとは考えていないらしいし、司会者の雨宮さんとか他の俳優さんも呼んで、その人達にもクリスタル予想を聞いたり、視聴者枠を設けるらしいし」
「視聴者枠?」
「僕らが外しても視聴者が言い当てたらこのアトリエが贈られるってこと。ただし視聴者は実際にアトリエで探せるわけじゃなくて、テレビに映った作品しか選べないわけだけれど」
その話は知らなかった。でもそりゃそうだ。6人だけじゃ見つからない可能性は高く、そうなると番組的におもしろくない。視聴者全員なら見つかるかもしれないけど、視聴者全員を招いたりはできない。
でも視聴者も制限付きでも回答権があるとすれば、視聴者の目は番組に釘付けになる。ここまで予想して企画を始めたなら王崎晶の美術への思いは大したものだ。
その視聴者枠なんてもっとわからないことだろうけど。
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