第24話 あくまで演出

「あの美大、浪人して当たり前らしいよな。青柳さんなんて謙遜してたけどそれでも現役で受かったし、実際絵の仕事してるし。そのへんどう?」

「そうですね。僕は落ちても他で受かったとこに入るつもりですし、絵に関われる仕事をどうにか狙うつもりです」

「お父さんみたいに画家目指さねぇの?」

「父も最初から画家だったわけじゃないですし。最終的に絵を描けていればいいなと思ってます」


結城君のしっかりしてる考え方に私もクロさんも感心した。周りに参考になる生き方をしている人が多いというのは羨ましい。うちの父親はテレビ局で番組を作ってて、母も料理研究家をしているんだから、メディア関係に強いがイラストレーターの参考にはならない。


進路の話が一段落して、別荘が急に人が出入りして賑やかになった。そのうちの一人、食事を作ってくれる女性スタッフ、安藤さんが大荷物を持って食堂に駆け込む。


「勉強中ごめんね。今、司会の雨宮さんが来てて、できれば参加者と絡んでほしいんです」

「え、今日は雨宮さん来る日じゃなかったですよね?」


安藤さんの要求はいきなりのものだったので、私は妙に思いながらも尋ねる。雨宮さんは司会者でナレーターだから私達の事をすぐそばで見てきたかのように語るが、それは台本を読み上げているだけ。映画の撮影前で多忙なのでここには開始日と終了日にしか来ないはずだった。

安藤さんは慌ただしく冷蔵庫の整理を始めながら事情を説明する。


「役作りもあってサプライズで来てくれたんです。ほらこのプリンも差し入れで。せっかくの機会なので場慣れした誰か絡んでほしいのですが、」

「あぁ……今日はふらみんさんも青柳さんも仕事でいませんからね……」


私はこういうとき頼りになる大人二人がいないことを思い出す。

良かれと思ってサプライズでやってきた雨宮さんだけど、あまり良いタイミングとは言えなかったわけだ。

番組としては雨宮さんを撮りたい。しかし単体では企画として弱い。いつもこういう時にまっさきに動くであろう大人二人は仕事で朝から不在。太陽さんもいつものごとく留守中。頼りないが高校生達をけしかけて、注目若手俳優との爽やかな交流を撮りたいものだろう。


「雨宮さんは資料室にいるから、高校生組で勉強道具を持って、偶然会ったていで驚きながら入っていってくれると私達はめちゃくちゃ助かります」

「……わかりました。そんなかんじで行ってきます」


ちょっとした場面を撮るというだけでも演技指導が入る。まぁ、このくらいならやらせとはいえないし、普通に入っていく方がやらせっぽい。従えるところは従おう。

あまり進んでいない宿題を持って、私達は二階の資料室に入る。その後ろをカメラがついてくる。そして私は部屋の扉を開けて、「えっ?」みたいな声を上げた。

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