第35話 モブから重要人物に



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「それはね、知ってる人が画面越しに突然情報量持って現れて、いつものテレビ見てる感覚で嫉妬とか憧れとか向けられてるだけだから。夏休み明けてCrystalの放送終わったららそのうち落ち着くだろうから気にしなくていいよ」


学校を出て、親友のスミレと一緒に久しぶりのドーナツ店に寄って、今日の事を話した。スミレは私の友達にしては頭がいい。なので今日あったことを話せば短くまとめてくれた。


「その子達にとって光莉はモブの一人だったの。でも光莉が有名になってテレビにも出るようになった。私はそうなる前からこうして光莉と話して光莉の事は知っているけど、その子達はそうじゃない。テレビの人になってしまったから、自分の分身と思えるかもしれないし、サンドバッグとしてどんな感情をぶつけてもいいと思ってる」

「うわ……」

「しかも皆進路に悩んでる頃に光莉はもう稼いでて、もしかしたら別荘まで手に入れるかもしれない、なんて嫉妬されるだろうしもう身近な存在には思えない、だから本人の前であろうと好き勝手に言えてしまう」

「ひ……」


思わずそんな声が漏れる。合宿中ずっと食べたかったクリームのドーナツの味がしなくなる。

確かに私は目立つような人間じゃなかったけど、テレビに出るとこうもそっちの印象に乗っ取られてしまうのか。

あれからクラスは大変だった。女子はほぼ全員で泣いたり怒ったりして、言い出した男子は拗ねてもう文化祭参加しないとか言い出した。それが全部ほぼ何もしていない私のせいというのはショックが大きい。


「最初に中傷したアホ男子はただのやっかみ。自分より目立つ奴が出てきて気に入らないからテレビに独り言言うみたいに悪く言ったの。でも女子はそれをいつも以上に許せない。だってテレビで光莉に感情移入していたから、自分や親友を悪く言われた感覚になった」

「親友って……ありがたく思っていいの?」

「アホ男子みたいになるよりは遥かにマシ。私だって推してる俳優は何してたって味方したくなるし。敵になるよりはいいと思っててほしい」


好意をもってくれているという点では前向きに捉えた方がいいかもしれない。それは誰しもあり得るものなんだから。この冷静沈着なスミレでさえ推しにはそうなるのだから、私もテレビに出た以上仕方ないと諦めよう。悪口を言われるよりはずっといい。

このイザコザも文化祭準備が始まる頃には落ち着くだろう。


「その推してる俳優、月山凜人なんだけどね、そっち行ってない?」

「月山凜人って、なんで?」

「王崎晶の映画あるでしょ。それに月山凜人も出ることになって、だからとっくにそっちの別荘に行ってて光莉も目撃してるのでは、と思ったんだけど」

「ないよ。初耳だし。雨宮さんには一度遭遇してるけど」


スミレの熱ががっと上がって急速に冷えていく。好きだもんな、月山さんのこと。確か若い割に渋くてきさくなかんじの俳優で、雨宮さんの先輩だ。しかし私には彼が映画に出るということさえ初耳だ。


「ていうか映画で月山さん出るんだね。誰役?」

「映画オリジナルの王崎晶のライバル役……」

「自伝的映画なのにオリジナルキャラ出るの?」

「地雷感すごいよね。でもファンにとっては推しの大事な役だから」

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