第36話 世間の声
どうなっているんだ映画Crystal。自伝でその人の人生を映画にすると思っていたのに、存在しなかったライバルキャラを作るとは。それとも私が知らないだけで意外にそういうものなんだろうか。
「まぁ、もし会えたらまっさきに教えるし、話せたらスミレのこと伝えとくよ。写真とかサインとかもいけたらお願いするね」
「ありがとう。やれる範囲でいいからね」
いつも勉強を教えてくれているスミレの推しの事だからなんとかしたい。番組に出て色んな人に結城君を始め共演者のことを聞かれたけど、スミレからは今日月山さんの事しか聞かれなかったんだもんな。きっと私に負担をかけないよう気を使ってくれているんだ。
「光莉はクリスタル探しと課題作りは順調?」
「今やってます……」
「順調ではなさそうね」
「色々と手を出しすぎちゃって。とりあえず課題作品にはとりかかってる。私的にはそっちが期待されているだろうし」
色々と終わらせる目処はたっている。とりあえず番組のため課題優先。クリスタル探しは後回しだ。太陽さんは私だけにヒントをくれたりして期待されているようだけど、番組は私が新作うさぎを描く事を期待している。
でも合宿ならではのあいすくりんうさぎなんて、まったく思い浮かばない。
「今ドーナツ食べてて大丈夫なの?」
「それがスタッフさんの迎えの時間とかあるから調整しないといけないんだ。幸い私はどこでも描けるし」
「ふぅん。タブレットで描くのっていいね。油絵とか結城君が描いてるの見てるとかっこいいけど、やっぱりお金かかるし汚れるもんねぇ……」
スミレのさりげない呟きを私は胸に刻んだ。こういう意見こそ世間の声かもしれない。ちょっと美術普及について聞いてみよう。
「そんな芸術を普及するのってどうしたらいいと思う?」
「普及?……広い意味でなら普及してるんじゃないの? 私達、詳しくは知らなくても一般教養として外国の有名な絵をわりと見ているわけだし。モナリザとかフェルメールとかは皆習うでしょ」
「あ、うん。そうだよね……」
「そこより詳しく知るという段階は趣味の世界の話じゃないかな。皆には皆の趣味があって、そう簡単に沼にはハマらないものだし」
そうだった。もうこの国の人達は一般教養としての美術を知っている。それだけでもすごい話だ。そしてそれ以上の知識は専門的で趣味の話だ。知らないままで困ることはないのだから。
「でも自分より上手な人見て諦めちゃう人も多いらしいんだよねぇ、そういう層を逃したくないっていうか」
「なら味かな。たとえば私は月山凜人が好きだけど、誰からも好かれるような爽やかな好青年ってかんじじゃないでしょ」
確かに。月山凜人は渋い魅力のある人で主人公タイプじゃない。
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