第9話 ネガティブ
「……僕はもう、ダメかもしれない」
意外にも話題は結城君から出された。やっとの思いで吐かれたような言葉だった。ネガティブなテーマだけど私はそれに必死でくらいつく。
「ダメって、何が?」
「番組に出るのが。絵を描く企画だからって参加したけど、僕みたいな面白みのない人間にはテレビなんて絶対に無理だ……!」
結城君は絶望から頭を抱えた。私はそれを見て、さっきの彼との違いに驚く。
彼は随分と自己紹介の時とは印象が違う。クールな美術界サラブレッド美少年じゃなかったのか。繊細に整った横顔は変わらないというのに、申し訳ないけどしょうもない事で悩んでいる。
「きっとネットで叩かれる! こいつ要らないし邪魔って言われる! 追放されろとか消えろとか言われて僕は自殺してしまうんだ!」
「落ち着いて。追放とかないから。私達がやってるのはほら、『幼児におつかいに行かせるあの番組』みたいなものだから」
この番組はどちらかといえばそれ。基本見守る番組だ。台本はないけれど、作品探しや作品制作などの目的はある。そこで一人か二人かが選ばれるだけ。とくに視聴者が荒れるような事はおこらないはずだ。
結城君、美少年なのに、才能もあるのに、なんでこんなネガティブなんだろう。
多分、事前にリアリティーショーを調べてしまって、よりにもよって悪い例の方を調べちゃったんだろうなぁ。でもあの幼児のおつかい番組だって言うなればリアリティーショーだ。そしてスタッフもあの番組並みに手厚い。出演者だってメディア慣れしていてふらみんさんをはじめ色々と気遣ってくれる。そうひどい番組にはならないと思う。
「私達は後継者とか視聴者票を奪い合うけど、他分野の刺激を受けて良いものを作るのを期待されているんだと思う。だから皆には関わっていったほうがいいよ」
私みたいな素人の落書きと思われても仕方ないようなイラストレーターは、ずっと絵の勉強をしてきた人を純粋に尊敬している。この人達に接触して、あいすくりんうさぎに何かいい変化があればいいと思う。結城君も……得るものがあるかはわからないけれど、そうであってほしい。
だからそう悲観するようなものじゃない。
「でも、僕は全然うまく喋れなくて、これからどうすればいいか……」
「ゆっくりやろう。急にめちゃくちゃキャラを変えるのはよくないし、長く付き合えば絶対結城君の良さは伝わるから!」
正直、私は最初のクールな結城君よりネガティブな結城君の方が自分に似てて好感持てる。とはいえいきなりネガティブを見せられない。そのうちに『最初のアレ緊張していただけなんだー』と思わせるようにしたら、絶対に人気が出ると思ってる。
結城君の緊張やネガティブは落ち着いてきたらしい。力の抜けた表情で私をまじまじと見た。
「……すごいな、hikariさんは。僕と同じ高校生なのに、テレビなのに堂々としていて」
「お父さんが関係者だから慣れてるだけだよ。……そういえば結城君のご両親は、この企画に賛成してたの?」
お父さんの話になって、結城君のどちらとも芸術家の両親を思い出す。芸術家ってこういう企画を嫌っていそうだ。とくに私みたいなイラストレーターと一緒に扱われるのは嫌かもしれない。
「両親は『是非やれ』って。僕がこんなだから、少しは前向きになってほしいんだと思う」
「そっか。よくよく考えたら王崎さんもこの企画を自ら計画してたくらいだもんね」
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