第8話 初日の親睦会
話しかけるのには私としては異論ない。ただ、それは結城君本人は望んでいない事だと思うし、ふらみんさんが言うほど気にかけなくてもいいような気がする。こういうのは本人の気持ち次第だし。
「こういう企画は目立つ人目立たない人が出てきて、そのうち目立たない人が焦ったりするものなの。それで無理あるイメチェンぐらいならかわいいもんだけど、たまに目立つために反抗的な発言をするようになる人もいる。そしたら視聴者はどう思う?」
「……悪役だと思って叩きまくる?」
「そう。だから今のうちにちょっと集団として行動する事に慣れておいてほしいの」
なるほど、さすがの気遣いだ。つまりふらみんさんはこれからの結城君への評価を気にしている。いくらスタッフが気を使ったとしても、視聴者がどう思うかはわからない。本人が目立たないのは仕方ないけれど、視聴者はそれに気付いて『こいつは叩いていい』と思うかもしれない。
それを避けるため、今からつるむことに慣れておいてほしいとのことだ。
「あとでクロ君も合流させるし、私らもそろそろお酒が入る頃だから」
そう背中を押され、私は東屋へと向かった。
八角形の白い東屋はかなり絵になるもので、ふらみんさんは来て早々写真を撮ってたっけ。
そこに座る結城君もさらに絵になるので腰がひけるけど、なんとか声をかける。
「結城君。これ、ふらみんさんから。先に選んで」
渡されたのはオレンジジュースとスポーツドリンク。なので先に結城君に選ばせる。話す話さないでなく、どっちのジュースがいいかを聞けばすぐ追い払われる事はないだろう。
「スポーツドリンクを、いい?」
「はい。そろそろ大人組はお酒飲むって。しばらくここで過ごしておいた方がいいよ」
ドリンクを渡しても反論はない。私はここにいていいようだ。夏真っ盛りでも山の方で夕方だから、外で過ごすのは心地いい気温だ。でもそれも結城君の機嫌次第で追い払われるかもしれない。
さて、何の話題を出すべきか。
相手の得意な話題? でも私は油絵のことをまったく知らないし、知らない人に一から説明するのを結城君は面倒臭がるかもしれない。なにより気を使われていると感じて余計拒絶される気がする。
高校二年生らしい話題? でもうちの平均的な公立高校と結城君の有名私立高校は全然違うだろうし。なにより結城君、学校でもこの態度で友達がいなさそうだ。
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