第2話 現役高校生イラストレーター
「他にもこちらに滞在中、作品を課題として仕上げてもらい、視聴者投票により選ばれた方には贈られるものが色々とあります。賞金や個展や商品化の権利などですね。クリスタル探しも結構ですが、作品制作も疎かにならないようお願いします」
雨宮さんから改めて語られる副賞に私以外の参加者はざわついた。この別荘が手に入る、というのはあまりにも現実感のない話だけれど、賞金や発表の場なんて芸術家は誰もが欲しがるだろう。
こんなチャラついて見える番組には美術界も大きく注目していて、おかたい美術団体や画材メーカーがスポンサーだったりする。だから副賞は豪華だしこれからの人気次第では第二弾なんかもありえる。美術界はとにかく若い人に関わってほしいから。
そうだ、だから私も呼ばれたんだった。
「では、まずは自己紹介をしてもらいましょう。若い方から……hikariさん。活動している名前と年齢と専攻を最低限でお願いします」
名前を呼ばれて、私は暖炉の前に移動した。そして雨宮さんに渡されたマイクに語りかける。
「hikariです。スタンプやグッズなどで『あいすくりんうさぎ』というキャラクターを描いてます。高校二年生です」
ラフにくずしたおさげの髪にカメラ用にメイクされて少しはパッとした平凡な顔立ち。それに公立高校の夏用女子制服を着ている。それが私。
芸術家というよりはたまたま趣味の絵が売れたイラストレーターだけど、多分知名度はこの中で一二を争うだろう。
どうやらこのCrystal、芸術家の後継者といっても真面目な絵画や彫刻などが得意な人だけから選ばれるわけではないらしい。少しでも若者が美術に興味を持てるよう、私のような知名度だけある者が選ばれた。私としても父親が番組制作に関わっていて顔を立てたいし、すでに何度か取材に応じた事もありテレビ番組には慣れている。
「『あいすくりんうさぎ』、僕もスタンプ使ってます。可愛いですよね」
「ありがとうございます」
雨宮さんのような大人の男性でも知っているのが私のキャラクターだ。
とにかく最初の自己紹介のわりにうまくできた。とくにでしゃばらず偶然売れたどこにでもいるような高校生を演じられたと思う。
私は美術の事はわからないし人の思う傑作なんてもっとわからないけれど、私が求められているのは知名度だろう。知識がないから人の傑作なんてわからないし、技術もないから作品制作も期待はされない。でも適当に画面に出て父や番組スタッフの面目を保ちつつあいすくりんうさぎを売り出すつもりだ。
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