第13話 ゆるキャラエリートと孤高の画家
「ただ、結城はあのキャラでいいのかー? 公式で『孤高の画家』って二つ名つけられてんぞ」
クロさんがパソコンのディスプレイを見ながら言って、私達は苦い顔をした。『孤高の画家』とは番組の編集で付けられた結城君の二つ名だ。これから私達の紹介を簡単にしたいときに使われる。ちなみに私の場合は『ゆるキャラエリート』。なんだこの二つ名。
そんなセンスの編集スタッフだから、結城君の表面だけ見て後先考えずそんな二つ名をつけてしまったのだろう。
「ただ緊張して人見知りで口下手でも、美少年で才能あると孤高とか言われるのね」
「僕は彼の素のキャラが好きだけどな。でもそれはまだ放送じゃ伝わらないようだ」
ふらみんさんと青柳さんがため息をつく。私達はこの一週間で結城君の素の性格に気付いた。でも番組の撮り方は間違ったまま放送されてしまった。これは取り返しのつかない問題だ。
「私達の役割は結構定まってきたよね。私や太陽さんが提案して場を動かして、青柳さんやhikariちゃんがフォローする。クロ君が陰キャぶって『さすが陽キャさん達〜』とか言いながらも従う」
「ふらみんちゃんは計算しつくされた提案だし、太陽君は天然の提案でキャラ立ってるよね」
「そこにどう結城が入るか、だよな。本来あの口下手なら俺みたいに振る舞うべきだけど、俺が陰キャ枠をとってしまったばっかりに」
人のことであっても仲間のことなので私達は悩む。私達は若いけれど、仕事もしていて人への魅せ方を知っている。だから自分の役割もわかっていてうまくやれた。でも、学生コンクールばかりの結城君はそういうのを掴むのはまだ苦手かもしれない。太陽さんも学生だけど、あの人はそういう次元で生きていないからな……
「結城君、これから美術が生き残るかどうかで悩んでいたみたいなんです。そういう悩みをいかせないでしょうか?」
私は提案した。一日目の歓迎会ではナーバスになっていたからこその悩みかもしれない。でもこれは私達も考えるべき悩みだ。
そしてなにより悩みというのはその人のキャラクターを深く掘り下げることができる。悩んでいるキャラクターなら、孤高キャラを貫きながら動かせることができる。
「なるほど、孤高の画家で美術界の将来を憂いている。これはウケる!」
ふらみんさんがピンと来た。確かにそう表現すると個性が増したように聞こえる。
「真白はめちゃくちゃ勉強してるから。視聴者やデジタルの人達に油絵や絵の見方を教える企画なんていいと思うなー」
新たな提案に顔を上げるがその提案は私達四人のものではない。新たにやってきた太陽さんのものだ。太陽さんはいつもツナギ姿で、もじゃもじゃの頭には葉っぱがついている。資料室にやって来ては図鑑を取り出した。
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