第18話 結城君のいいところを引き出す
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その日の午後、お弁当で用意されたお昼を食べて、私は庭の東屋に向かった。そこで結城君と待ち合わせて、彼がいなかった時に皆でした話をまとめて伝えるためだ。
まずは皆が結城君が目立つようにしたいと思っている、ということを伝える。
ちなみに結城君は午前、クロッキー帳を持ってこの付近で課題制作にいい場所を探していたらしい。山の上で涼しいとはいえ刺さるような日差しの中、結城君は白い肌のままなのが不思議だ。
「結城君、私達に美術を教えてくれない?」
私の目的は美術方面で結城君のいいところをカメラ前まで引き出すこと。ふらみんさんは日常パートで何か計画を練るんだから、こっちは私が担当しないと。私達が動こうとしていたからこそ太陽さんもクリスタル探しのヒントをくれた程なのだから。
「美術を、教える……」
「なるべく視聴者が入りやすいように教えてほしいの。クリスタル探しと課題制作と、メンバー付き合いと並行してもらうことになるんだけど」
結城君は真面目で、今日だって午前中外で絵を描いていたほどだ。そんな彼に慣れない事をさせ負担をかけるけど、やってもらわなきゃ困る。
「たとえば、よくテレビであるみたいに、有名な絵の裏側について解説するの。そういうのできそう?」
高尚そうなものに人の目を向けさせるには、皆が一度は見たことのあるような絵の、下世話な裏事情や謎で惹きつけるのがいい。多分結城君くらい勉強していればそんな話の一つや二つできるはず。
「……やってみる。西洋美術史はフォーヴィスムくらいまでしか勉強していないけど」
「うん、わからないけど多分十分。スタッフさんにも話し通しておくから、皆で一緒に考えよう」
悲しいかな私は専門的な事は知らない。でも一般的な感覚は知っている。難しいことはここの資料室や青柳さん太陽さんに頼って、視聴者目線かどうかは私やスタッフさんで調べよう。
あれこれ考えてみる結城君の横顔はとても真剣で、今だけはネガティブさは消えている。
「あとね、油絵って難しい? テレビ見た子達が私もやろうと思ってできると思う?」
「……やろうと思えばできると思う。でも、正直今は学校の美術部だって減ってるし、絵画教室も多分……」
結城君の横顔にネガティブが戻ってきた。確かに今の時代にそぐわない画材だもんな。ちょっと調べただけでも絵の具は高価だし、キャンバスは大きいし、部屋は服が絵の具で汚れたら落ちない。家屋が狭く貧困な日本向きではない気がする。それなら汚れないデジタルが今にあっている。
「じゃあ油絵は余裕あれば手を出してみよう。なんでもやってみたいけど、手を出しすぎてはよくないからね」
多分、今でさえ結城君に負担をかけてしまっている。私達はがんがん提案しているけれど、自己満足になっちゃいけない。企画の趣旨的に結城君が目立つようにしたいのに、疲れた様子の彼ばかりが映るのはいけない。
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