第19話 現実感のない
「結城君、クリスタル探しの方はどう?」
「そっちは課題作品がある程度仕上がってからにしようと思う。課題ができないほうが焦って何も手につかないから」
「そっか。太陽さんがヒントを言ってたんだけど、『クリスタルは未発表のもの』なんじゃないかって」
「……それ、僕に教えていいの?」
冷ややかな目がこちらを見る。そんなに引かれるようなこと言ったっけ?
「太陽さん、結城君以外に言ってたから。結城君に言うなとかは言わなかったし」
「そうじゃなくて、僕らライバルなのに」
ああ、そっか。私はすっかりその視点は忘れていた。私達はクリスタルを探し作品で視聴者票を奪いあうライバル……なんだけど、やっぱりそんな気になれない。
「私はそこまで考えてない。番組の目玉なのはわかるけど、後継者とかこのアトリエとか賞金に興味はないんだよね。今でさえ高校生に見合わない収入があって現実感がないし、税金とかどうなるんだろう」
「あぁ……僕も絵の賞金で何十万かもらった事があるけれど、いきなりすごい額で途方にくれてた。だからかな、課題制作に集中したい」
私も高校生らしくないけれど、結城君もわりとそうだ。でもメンタルは高校生のまま、釣り合わない金額を前にどう過ごしていいかわからない。芸術家の後継者という肩書やアトリエという遺産だってきっとそうなる。だから課題制作や番組を盛り上げる事はやるけれど、クリスタル探しはそこまでやる気はない。
「あと夕食後、皆でちょっとしたゲームをやろうってふらみんさんが」
「わかった、絶対に参加する」
結城君は積極的とは言えないけれど、誘えば淡々とした様子で乗ってくれる。孤高なんかじゃなかった。
■■■
夕飯、夏らしく冷やし中華と杏仁豆腐を食べて、そのまま食堂に居座りゲームを始める。このゲームの発案者はふらみんさんで、既にスタッフさんに話を通していたのか食堂内にカメラも入っている。
「皆クロッキー帳は持った? 今日やるのはお題を出してそれを絵にすること。一人一つワードを決めて、皆にそれを記憶だけで描いてもらうの。だからスマホ触るの禁止ね」
これがふらみんさんの企画。うろ覚えイラストだ。私も友達と遊びでやった覚えがある。
配られたのは新品のクロッキー帳と細めのサインペン。
「えーと、答え合わせのためお題を出した人にも描いてもらおうかな。だからお題は自分が完璧に描けるものにしてね。で、出題者から見て一番正解に近い人に1ポイント与える。それで賞品は……杏仁豆腐の余り!」
「ふらみんさーん、もっといいもんにしてくださいよー」
「いいじゃん遊びなんだから。制限時間3分ね。最初の出題は……hikariちゃんお願いできる?」
クロさんは不満そうだけどこれは急に考えた遊びだ。賞品を奪い合う事が目的じゃなくて、交流のためのものだ。皆のいいところを引き出せればそれでいい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます