第40話 誤解

私達三人だけで話をしたいと太陽さんが言った。彼は相変わらず前髪で目元が見えないけれど、私達以上に物事が見えているようだ。ふらみんさんはうなずいてくれた。


それからガゼボへ移動して、太陽さんは急によつん這いになっる。低い視野から何かを探すように這っていた。


「太陽さん!?」

「ちょっと待ってね…………あった!」


這いながら太陽さんは何かガムテープを見つけて剥がし、遠くの茂みの方へ投げ捨てた。


「今のね、盗聴器だと思う。それで犯人は俺らの会話を聞いて、hikariちゃんの部屋に盗みに入ったんだ」


もう盗聴器はないとわかっていても、私と真白君は言葉が出なかった。カメラもマイクもないはずのこの場所に、盗聴器がしかけられていた。その盗聴器は今頃虫の声でも拾っているだろう。


「真白、ここで俺はhikariちゃんにクリスタルのヒントの話をしたんだ。クロッキー帳がヒントだって。だから犯人はhikariちゃんのクロッキー帳にヒントがあると思いこんで本当は真白のを間違って盗んだかもしれない」


状況を知らない結城君のために太陽さんは説明する。窃盗犯は盗聴犯だった。

そして窃盗聴犯の目的。それはクリスタル探しのためだったらしい。


最初、犯人はガゼボに盗聴器をしかけていた。私達が絶対に秘密にしておきたい話をする時にはカメラもなく日陰になるガゼボで話す。だからそこになにか重要な情報が出てくるのでは、と盗聴器をしかけたのだろう。


いつから盗聴器が仕掛けられていたかは知らないけれど、私達はここで色んな話をした。

青柳さんとは『やらせがあるとしたら私』、太陽さんは『ヒントはクロッキー帳』、そんな話をきっと聞いたはずだ。

そして犯人はそれらの意見を総合させて、私の部屋に侵入した。部屋を荒らしてクロッキー帳を見つけて盗んだ。思い込みで盗みに入り、思い込みで盗んだのだ。


本当は、私に勝ってほしい太陽さんが『クロッキー帳からさがすといい』というヒントを与えてくれただけだったのに。それを見事に誤解した。


「だから私が預かった結城君のクロッキー帳だけが盗まれたんですね。あれ、1ページ目はあいすくりんうさぎが描いてあったから、私のものだと思い込んで」


預かった結城君のクロッキー帳も、最初はうろ覚えお絵かきゲームで使って簡略うさぎが描いてあった。だから犯人は今も私のものだと思っているのかもしれない。そしてありもしないクリスタル探しのヒントを探しているのかもしれない。


「待って、じゃあ犯人はクリスタル目当てで盗みを働いたってこと?」


この辺りの話は結城君はまだ知らなくて驚いていた。青柳さんが私がやらせで勝つと疑って答えを聞きに来たことも、太陽さんがクリスタルを見つけたけど辞退したことも彼は知らない。

だから『まさかクリスタルごときで盗みを働くなんて』と思っているのだろう。


「犯人は僕達参加者の誰かってこと?」

「そう。犯人の目当てはクリスタルで容疑者は参加者。で、俺と真白は違うだろうからこうして情報まとめてんの」

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