絵になる
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第1話 リアリティーショーの始まり
8月1日。この国の芸術家である王崎晶氏が亡くなって半年。その後継者を決める事になった。
とはいっても王崎晶には直接の弟子がおらず、才能ある若者から後継者を選び芸術家としての財産を譲る。代わりに後継者は芸術を広める活動を行う。
後継者選びの様子はインターネットテレビ番組で世界に放送されるという。そんなとんでもない話に高校生イラストレーターの私は参加する。
番組の舞台は高級別荘地にあるひときわ大きな別荘。王崎晶のものだ。
「若き芸術家の皆さん、こんにちは。俳優の雨宮佑馬です。これから行う『Crystal』の司会者としてこの場に参加させていただきます」
スーツ姿の男性俳優、雨宮佑馬は華やかな笑顔を私達に向けた。さすがリアリティショー。芸術を志す若者、素人が集まるだけでは集客力が弱いため、芸能人を司会として呼ぶのだろう。
マイクを持って暖炉の前で語る彼だけで見る価値はある。
これから撮られるのは『Crystal』という番組。王崎晶の名前からとったタイトルだ。それが彼の傑作だったり、原石である私達にかけられている。
ルールは簡単。若きクリエイター六人をテレビに出す。私のような運良くゆるいイラストが売れたイラストレーターから美大で真面目に勉強してきた人達までがクリエイターだ。その中から活躍した人を後継者とし、王崎晶が受けるはずだった仕事や芸術家としての遺産が与えられる。
その様子を台本なしのリアリティーショーとして公開し、視聴者投票などで盛り上げるという企画だ。
「皆さんにはここ、王崎晶氏の別荘兼アトリエで過ごしてもらい、その時の作品や行動により後継者を決定します。例えばこの建物。これは王崎氏が思う傑作、クリスタルを言い当てた方に贈られます」
事前にスタッフから説明を受けていたとはいえ、改めて司会者が告げるととんでもない報酬だと思う。
多分ここが一番わかりやすい王崎晶の遺産。元々資産家の一族である彼が持っていた別荘は、私のような庶民では想像がつかないほどに大きい。
本館は主に制作の場で、他に宿泊棟が二つ。なんでも王崎晶は芸術家仲間や生徒をここに泊めて活動の支援をしていたらしい。
ちなみに今皆で集まっている食堂は本館にあって、十人くらいが同時に食事をとれる規模の大きさだ。それでも撮影ともなれば食堂の隅の方でスタッフさんがぎゅうぎゅうになって見守っているけど。
一階は食堂と作業場。二階は作品置き場と資料室。さらには別館として宿泊棟が二つあって、そこで沢山の人が寝泊まりできるようになっている。個人の別荘というにはとんでもない施設だ。
そしてなによりこの別荘には未発表の作品がある。別荘とその権利もまるっとその後継者のものとなるわけだ。
それには王崎晶の傑作、個人的に一番の出来だとおもうのものをこの番組ではクリスタルとし、当てなければいけないという。
女性スタッフが封筒を雨宮さんに差し出し、雨宮さんはそれを私達に見えるようかかげる。
「こちらが王崎氏が生前に残した、クリスタルの作品名です。まだ誰も、スタッフすらもその内容を知りません。この封筒は8月末、滞在最終日に開封します」
厳重にロウで封された黒い封筒。それは中が透けて見える事はないし、封を開いたらすぐに気付かれてるだろう。
意外なことにこの番組は王崎晶が番組制作側に持ち込んだ企画だった。本当は生きているうちにこの番組を収録するつもりだったとか。
厳しいおじいちゃんという印象の王崎晶が、こんなチャラついた企画をテレビ局に持ち込むというのはかなり意外だ。
だから生前のうちにこうしてクイズの答えが用意されていたらしい。
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