第4話 我らがお嬢様は


 一部の最低限必要な食器や調理器具を水に浸けている間に、施設内をざっくり回る。

 それから着手したのは、もちろん自室の掃除だ。正直言って他はすぐどうにかできそうな感じじゃないし、この部屋で寝泊まりするのは普通に無理。それから掃除道具の様子とかを見たいからね。


「——ふぅ、これでいいかな」


 埃は綺麗にしたし、物の配置もちょっといじった。ベッドメイキングもした。それから荷解きもした。これでやっと休める。何度も言うが他は今日やったって無駄。


「あれ、随分と綺麗になったな」


 男性の声にびっくりして戸口の方をみると、そこにはすらりとした体躯の男性が立っていた。見たことがある私は思わず声を出す。

「! エドガー様…」

「様付けじゃなくていい。俺は貴族でもない、ただの騎士だ」


 彼がそう言って机にお茶を置いたのを見て、私は慌てて椅子を用意する。

 彼はレイお嬢様の専属騎士、エドガー・メロー…さんだ。様付けじゃなくていいらしいしね。赤い髪と瞳には見覚えがあった。

 メローは代々サントロワの家に使えている家系だ。男は騎士としての教育を、女は侍女としての教育を受ける。私も屋敷でメロー家の方からメイドのイロハを教わったのだ。


「お久しぶりでございます。エドガーさ…ん」


 持ち直した。危ない危ない。


「ああ。久しぶりだな。…本当に来たんだな。うちのお嬢様が無理言ってお前を呼んだんだから」

「お嬢様が?」


 私は給料が高いからここで働く話をうけたんだけどね。私の中で金に勝るものはない。

 彼は一つ頷いてから話しだす。


「家事まで手が回らないから誰かを雇おうと思った時に、『私のユリアなら掃除も洗濯もお料理だってできるわ!』って。鬱陶しがって侍女も側に置かないくせに何を言っているのかと思ったな」


 私のことだけどそれなら何言ってんのってなるよね。お嬢様は自由奔放な方でいらっしゃるからな…。


「あれ、今はお嬢様についてなくてよろしいのですか?」

「うちの人の出入りはほぼないから、基地内は自由にしていいことになっている。あとはお嬢は強いし、自由さに気づかれてしまって…」

「あっ…」


 お嬢様、お強いからな。その上で自由を知ってしまったなら好きにしたいと言うだろう。専属護衛騎士も形無しである。


「それに他の隊員にはつくわけもないからと侍女も屋敷に帰して…グータラライフを満喫してらっしゃる…」


 頭を抱えだすエドガーさん。十年以上仕えている騎士にここまで思い詰めさせるお嬢様って何?彼が心配性な部分もあるけど、それを差し引いても目に余るようだ。


「ユリア、お前ならこの状況をどうにかしてくれるだろう。お嬢様のお気に入りなら言うことも聞いてくれるはずだ。基地の他の者のことも含めてどうかよろしく頼む」


 こんな一介のメイド如きにもしっかりと頭を下げられる彼には好感を持てる。昔から忠義を尽くしていたことはよく知っているしね。

 私もしゃきっと背筋を伸ばして一礼。


「――はい。もちろんでございます」


―――――――――――――――

次ちょっとだけ魔法使います


読んでいただきありがとうございます。

良ければ応援よろしくお願いいたします。


次話更新は8/4 18:20です。

ストックができたら毎日更新、無理なら二日に一回くらいの更新ペースにするつもりです。明日まで様子見ます。

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