第24話 騎士の方々



 魔法警備隊の入り口には守衛さんがいる。あくまでも騎士団の分署みたいな扱いなので、朝来て陽が沈む頃には騎士団に帰って行くけど。

 だいたいそこに来てくれるのは三人。もうみんな顔馴染みだ。


「おはようございます」

「おぉ、今日も早いね」

「今日はロランさんが早番なんですか。お疲れ様です」

「いやいや、そんなことないさ。ユリアちゃんの方が早いだろう」


 彼はベテラン騎士のロランさん。三十二歳。既婚者で一人娘がいる。

 騎士としての腕はそこそこなんだとか。戦場でも怪我せず運良く生き残っただけだよ、と言っている。運も実力のうちだと思うんだけどな。


「今日はよく晴れてますね」

「そうだねぇ、暑くなりそうだ。ユリアちゃんも気をつけてね」


 ちょっと天気の話でもするのがいつもの感じだ。


「はい。またお茶でも持ってきますね」

「ありがとうね」


 彼は鷹揚に頷く。騎士の割にはのんびりしてる人らしい。


 ◇


 午前中に今度は洗濯をして、ちょっと早く終わったからついでに散歩してみる。厩舎の方を覗くと、人の声が聞こえた。


「ほーら、ここか?…はは、お前は本当に人が好きだなぁ」


 ちょっと覗くと馬にブラシをかけている騎士の方が。


「こんにちは、エイデンさん」

「お、ユリアちゃん。馬、見に来たの?」

「そんなところです」


 今度は中堅騎士のエイデンさん。彼はよく休憩がてら馬の面倒を見てくれている。正直なところ騎士同士で喋っているより馬の方が癒されるから好きと言っていた。騎士団ってそんなに殺伐としてるのかな…?

 ちょっと私の方を向くと、馬がぶふーっと鼻から息を吐く。


「こらこら。ユリアちゃんが来たんだぞ」

「こんにちは、ヴィーノ」


 挨拶をしながら首をポンポンと撫でると、嬉しそうにしている。

 ヴィーノは若い栗毛の馬だ。顔と足元に白い部分があるからわかりやすい。とにかく人懐っこくて可愛い。

 しばらく撫でていると今度は隣のスペースの馬がぶるるっと主張してくる。


「ミラメルもこんにちは」


 彼女は白とグレーの斑点がある馬だ。この子はちょっと気難しいところがあるけど、優秀な馬だと聞いている。


「あはは。ミラメル、今日は機嫌がいいみたいね」

「ミラメルはユリアちゃんが来るといつも機嫌が良くなるよ。気に入られてるんだね」

「そうなの?ミラメル」


 ぶふーっと嬉しそうにするミラメル。


「本当みたいですね」


 ミラメルも女の子だからか、種族の壁を越えて何か通じ合ってるのかもしれない。


「あっ!こら、かじるな!」


 三頭目の全部栗毛の馬が柵をかじかじしている。


「こら、トクソット。かじかじしないの。また今度オレンジとかもってきてあげるから、ね?食いしん坊なんだから」


 今度はかじかじする顔のあたりを撫でる。

 トクソットは食いしん坊。食べ物をあげると特に嬉しそうにする。単純だけど可愛いところもある馬だ。


「エイデンさんもいつもありがとうございます」

「ここは訓練ばっかりじゃなくて楽しいからいいよ。馬も可愛いしね。それからユリアちゃんが来るとみんな機嫌が良くなるからいいね。ぜひまた寄ってよ」

「はい。みんなも今度お土産持ってくるからね。バイバイ」


 馬たちをもう一度ポンポンしてから厩舎を後にする。

 うん、馬って可愛い。


 ◇


 翌日の午後にはお茶を持って門の方へ。ドアを叩くと、若い声が聞こえた。


「はい……ああ、ユリアさんですか。どうなさいました?」

「お茶はいかがですか?ゼノさん」

「いつもすみません。どうぞこちらに」


 私より二つか三つくらい年上のはずなのにいつも腰が低い騎士のゼノさん。私からすれば下っ端茶飲み友達みたいな感じかな。

 今年から魔法警備隊分署のメンバーに入ってきたらしくて、のんびりした雰囲気に若干戸惑っている感じがあるそうだ。

 中のテーブルの上にお茶と買ってきたクッキーを置く。


「他の方はいないんですか?」

「ロランさんは昼寝、エイデンさんはいつも通り厩舎ですよ。で、俺だけがここに残されてます」

「あはは…ここってうちの人しか来ませんからね。ゼノさんも好きなことすればいいんですよ。はい、お茶どうぞ」


 話しながらサラっとお茶を入れる。味見はしてないけど大丈夫だと思う。


「仕事中ですよ?…美味しいですね」

「そもそも、魔法警備隊の周りには不審者の侵入阻止の結界が張られてるじゃないですか。…うん、丁度いい」

「それ以外に何かあった時の用心ですよ。形式ってのもあるでしょうけどね」

「責任感の強い方ですね」


 そして私はクッキーを一枚つまむ。おいしい。


「このクッキー美味しいですね。焼いたんですか?」

「買ったものですよ。オーブン、ちょっと壊れてるらしくて」

「そうなんですか?そういうのでしたらロランさんに見てもらえばいいと思いますよ。あの人、職人の次男だったはずなので」


 ゼノさんがロランさんを叩き起こして、オーブンを見てもらった結果。


「あーこれねぇ……ほらっ、この炭の塊があったからダメそうだったんじゃないのかね。あとは綺麗に掃除すれば大丈夫だよ」

「そんな簡単に…ありがとうございます!お礼に何か焼いたらまたお渡ししますので!」

「悪いねぇ」


 サクッと直ったみたい。もしかしたら何かを焼こうとして黒焦げになったのかもね。



―――――――――――――――

馬は3頭飼ってます。

魔法警備隊は領地を守る"警備隊"なので、騎士団ほどたくさん飼っていないのです。


読んでいただきありがとうございます。

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次話更新は8/27 12時頃です。

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