第23話 レイ様の部屋
「本当にベッドメイキングだけよね?」
「そうですよ?私だって他の仕事がありますし。何かやましいことでもおありですか?」
やたらと聞いてくるので何かあるのかと私は怪しんでいる。他の人には好評をいただいているんだけどな。
「失礼します」
ドアを開けると…散らかった服がまず目に入った。
そして奥に入ると物もまともにしまわれていないし、床には埃がたまっている。
「……」
「ベッドメイキング、よね、ユ、ユリア…」
恐る恐る聞いてくるお嬢様。
「…お嬢様ッ!!」
私は思わず石の床をダァンッ!と踏み鳴らした。手元にモップかブラシでもあったら床に叩きつけてたと思う。最悪破壊してる。
「どうされたんですかこのきっったないお部屋は!!服も取っ散らかってるしまともに風通しもしないで!!もう一度お屋敷で淑女とは何か学んでこられますか!?」
私は一番手前にあった服をつまみ上げる。
「この服もどうされたんですか?装備だってその辺に置いてるんですか?物は大事にしないといけませんねぇ!こんなんじゃあベッドメイキングどころじゃありませんよ!?まずは窓を開けて服を全部ここの籠に入れてください!返事は!」
「…はい…」
いくら仕えているお嬢様と言えど、これはひどい。
「ユ、ユリア、どうかした…?」
騒ぎを聞きつけたアルトさんとエドガーさんが覗きに来ている。私はそれに精一杯の笑顔を返す。この人たちは、悪くない。
「この惨状をご覧になって何か?」
戸口からチラッと覗いているだけだけど、察したらしい。
「あと、エドガーさん。あなたって確か護衛騎士でしたよね?お嬢様のこういうところはご注意されなかったのですか?」
「あ、その、レイ様からは淑女の部屋に入るなと言われてまして…」
「そうですか。では帰ってくれて構いません。……お嬢様、どういうことかこれから詳しくお聞きいたしますね?」
「ひっ…はい…っ」
ベッドメイキングじゃないね。
…まずは掃除をしながら”お話”をしましょうか。
◇
二人がかりなら二時間ないくらいで綺麗にできたね。そのくらいで”お話”も出来たし。
ついでに綺麗になった部屋で久しぶりに髪を整えさせていただく。ドレッサーの中身の確認も兼ねて。肩につくかつかないかくらいの長さなので、本当はすぐ終わるんだけど…じっくり、ね?
こうしてご自分が貴族令嬢だということを思い出していただこう。
「お嬢様、よろしいですか?こういう棚や引き出しってものをしまうためにあるんですよね。ご存じでしたか?これからは是非お覚えになられてくださいね」
「はい…」
うーん、あの頃のお嬢様はどこに行ったんだろうか。お嬢様はどうやら、魔法警備隊に来られてからサボるということをお覚えになったらしいですね。
「ユリア、ごめんなさい。私、もうちょっとちゃんとするから…」
「具体的に何をなさるのですか?」
「部屋の片付けとか、物をきちんとしまうとか…」
鏡越しにシュンとした顔が見える。そろそろ反省なさったかな。お嬢様だって私より年上だし、もう子どもじゃないからはっきりと言わせていただいたけど、もうそろそろいいかな。
「…お嬢様、魔法警備隊の一隊員として平等になりたいのなら、ご自分で身の回りのことをするのも平等ではありませんか?実際平等になるのは難しいものです。みんな多少何かを我慢しないと真の平等にはならないと思いますよ」
ここで私が手を出してしまうと、結局『ただの貴族のお嬢様』で終わってしまう。それはお嬢様のためにならないと思う。
「ユリア、私、片付けは苦手だと思うの。ここにいる限り自分でやることはやらないといけないわ。…でもどうしても無理だった時、あなたに頼ってもいいかしら」
「…そういうことでしたら、大丈夫ですよ」
多少の贔屓もあるのかもしれないけど、こればっかりは仕方ない。私も(片付けの)手が出ちゃいそうだし、落としどころをつけておこうと思う。
「ああ、ありがとう、ユリア。あなたが一番話が分かるわね。お屋敷の使用人は理想論ばっかりで、現実的な解決策の一つも出せないわ。その点あなたはちゃんと現実を見てるのが長所ね」
「お褒めにあずかり光栄ですが、この場合の『現実』はお嬢様の甘ったれたところですからね?……はい、できましたよ」
「人間、短所だってあるものよ。いつもありがとうね、ユリア」
最後の最後は振り向いて、目を合わせて言ってくれた。
◇
「いやー…怖かったね…。何事かと思ったよ」
「お騒がせしました」
夕食の時には覗きに来ていた二人からすごく安心した空気がした。そんなに怖かったかな…。
「ユリアちゃんも怒るんだ…」
「あんまり度が過ぎれば怒りますよ?人間ですから」
半信半疑のジャンさんにはにっこりと笑みを返す。みんなちょっと顔が引きつってる。隣のユぺさんがめちゃくちゃなだめてくるけど、別に今は何ともありませんから。
「うちのメロー家の女より怖かったな、あれは…」
「それはないわ」「それはないです」
同時に返す私とレイ様。
「彼女たちは、もっと、怖いわ」
ひたすら頷くしかない。隣の領から遊びに来ていた、レイ様から見れば甥っ子のジェレミー様がいたずらで鍵を隠した時はそれはもうガチで説教してたよね。母親のミナ様も含め。
あれは遠巻きに見てたけど怖かった。いつもは温厚な執事のステファノさんも大層怒って…いや、殺気がすごかったもん。死ぬかと思った。
そういうのを思い出した結果としてその日はいつもより静かな夕食になった。
…私のせいかな?
―――――――――――――――
立場が上の人にもしっかり意見言うの大事。人間だからキレたりするよね。
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次話更新は8/26 12時頃です。
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