第25話 てんこ盛りオレンジ


「ユリア!今年はオレンジが豊作なんだけど使う?一気に採ってきたんだけど」

「わざわざ採ってきてもらって…使いますよ。ありがとうございます」


 鮮やかなオレンジだ。採ってきたばかりで爽やかないい香りもするし。


「高いところはまたジャンに採ってもらうから、使い切っちゃってもいいよ」


 アルトさんはそう言ってひらひらと手を振っていってしまった。そろそろ夏めいてきたから植物園の手入れが大変なんだとか。

 さて、この籠いっぱいのオレンジをどうしたことか。


「そのまま、ジャム、ゼリー、パウンドケーキ、タルト、マドレーヌ、砂糖漬け、サラダに添えても良し…」


 台所に移動しながら、頭の中でざーっとオレンジを使ったレシピを思い出す。

 うん、これだけあるならまとめていくつか作っちゃおうか。


 まずはナイフで皮をむいたオレンジを五個くらい用意する。白いところも厚めにむくのが大事。それと綺麗なガーゼとボウルを出した。

 皮をむいたオレンジをガーゼで包む。


「〈強化リィンフォース〉」


 それを握りつぶして絞る!限界までね!圧搾機?そんなのいらない!魔法を使えば己の手で行けるね!

 五個分となるとかなりたっぷり絞れた。


「半分はそのままジュースにして、あとはゼリーかドレッシングにするのがいいかな」


 先にジュースにするものとドレッシングにするものを分けておく。それからボウルに溶かしたゼラチンを入れて混ぜる。混ぜたら…型もないんだった。いいや、適当にカップとか深めのお皿に入れよう。入れたら布で蓋をして食料庫に置いておく。涼しいからね。

 そしてドレッシングは適当に酢やオリーブオイル、塩胡椒を入れればいい。目分量でいい感じの味になれば良し。瓶に入れておく。


「パウンドケーキ作るかなー…タルトは面倒だし」


 さっきのジュース用にむいた皮があるから、細かく切って再利用。

 バターを柔らかくして、砂糖と合わせてふわっとするまで混ぜる。そして卵も入れて混ぜる。粉をふるいにかけて入れてなじませたら、オレンジピールを入れる。あとはさっき絞った果汁もちょっとだけ入れる。


「ふー…」


 混ぜる工程は思いっきり肉体労働だからね。疲れるよ。

 生地を型に流し入れて、何度か空気を抜く。それを予熱しておいたオーブンに入れる!この前直したから試運転にね。


「オーブンが使えるといいんだよねー…よし」


 ちょっと休憩。一気に作ると疲れちゃう。


「あとの余った皮は…乾燥させるか砂糖漬けかな」


 一度茹でて、冷水で締めてを二回。それから鍋で熱した砂糖水に少しつけて、上げてから冷ましたものに砂糖をまぶす。

 おやつにちょっと食べちゃう。


「うん、甘い甘い。いい感じ」


 それから最初に作ったゼリーの様子を見てみる。食料庫は初夏の気温でも涼しいので、かなり冷えている。今夜のデザートにしてもいいかなと思いつつ、食料庫を後にする。

 直したばかりのオーブンからいい香りがする。


「おぉー!いい感じ!」


 まだ熱いから一旦置いておく。

 その間に洗濯物を取り込まなくちゃね。


 ◇


「ああっ!!まだダメですからね!冷めてないので!そもそも型から外してないし!」


 洗濯物を取り込んでくると、ユぺさんとジャンさんが冷ましていたパウンドケーキを囲んでいた。


「ダメなのー?美味しそうなのに」

「ほら、ユぺさんもまだこれ食べられませんからね!オレンジジュースでも飲んでてください!それか普通のオレンジもそこにありますから、セルフサービスでどうぞ!」


 ユぺさんにジュースの入った水差しを持たせると、ニコっと笑った。何かあげれば気が済むんだな…


「ユリアちゃん、そこの砂糖漬けは?」

「明日以降でどうぞ。ユぺさん、ジュースはジャンさんの分も入れてあげてくださいね」

「ハイハイ~」


 ユぺさん、いい人。


 ◇


「――それでこんなにオレンジ尽くしなのね。大量消費じゃない」


 本日のメインディッシュは鶏肉なんだけど、オレンジピールを少し入れて、あとは焼くときに少し果汁も入れた。爽やかでいいね。

 お茶にもさっき作った砂糖漬けを入れてみたし、デザートは普通に食べるオレンジ。


「オレンジ、普通に食べるだけだと思ってたネ…」

「そうですよねユぺさん…」


 頷きあうユぺさんとジャンさん。


「こんなにアレンジできるとはな…」

「そうね。ベルナトに教わったの?」

「教わったものは一部だけですよ。あとは肉の焼き方とかの基本だけです。聞いたものだけならレシピをまとめてますね」


 まかないは余った野菜と肉を炒めただけとか、余りものをごった煮にしたスープとか、名前のない料理も多かった。だから正確な調理法はわからなくても、気に入った組み合わせは書き留めるようにしている。


「それにしても豊作じゃないですか。オレンジってこんなに取れましたっけ?」

「魔法でちょっとね。今年は上手くいったね」


 彼はいつもと変わらない笑みを浮かべていたけど、何かは明言しなかった。

 この時ばかりは、アルトさんからちょっと危険な感じがした。



―――――――――――――――

ユリア、そろそろ隊員を手懐けてきたかもしれない…


読んでいただきありがとうございます。

PVが350を超えてます。一ヶ月経ってないのにマジか…と自分でもめちゃくちゃビビってます。

このあともどうかよろしくお願いいたします。


次話更新は8/28 12時頃です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る