第26話 おかしなお菓子


「んー!美味しい!」 


 昨日仕込んでおいたオレンジのパウンドケーキ。先に一口食べちゃってる。ちょっと厚めに切ってます。作った人の特権。


「美味そうだな」

「!!?」


 エドガーさんに声をかけられて飛び上がりそうになる。危ない危ない。自分の手を食べるところだった。


「パウンドケーキか」

「そうです。一切れどうぞ」


 普通の厚みに切っておいたものを取るように勧める。


「…生地もしっかりオレンジを感じるし、しっとりしてて美味いな。流石ユリアだ」

「そういえばエドガーさんはお菓子は作れるって聞いたんですが」

「ああ」


 意外…とは思うけど、お菓子作りって肉体労働だからね。混ぜるところが特に。お屋敷のパティシエもいたけど、腕の筋肉すごかったよね。


「どういうものを作れるのですか?」

「ユリアほどではないが…パイとかは作れる」

「本格的じゃないですかやだー…」


 パイって作るの大変なんだからね。あの生地が難しいのよ。アップルパイの生地とか思いっきり肉体労働だからね。やったことはあるけどやりたくはない。


「もしかして型とかあるんですか?」

「一応。タルトと、カップケーキと、マドレーヌはある」


 あるんだ?!結構あるよね?ガチでやってる人だよね!?


「綺麗に使いますのでよければ貸していただけませんか?」

「ああ。道具は全部持ってきてもいいぞ。使わないのももったいないしな」

「ありがとうございます。マドレーヌとかやりたかったんですよ。あ、もちろんエドガーさんの物ですから好きに使っていただいて大丈夫ですけどね」


 意外とサクッと認められちゃったからびっくりだよ。拍子抜けだよ。


「そういえば今、レイ様はどうされてます?」

「書類仕事だ。何か休憩に持って行こうと思ってな」

「じゃあこれでちょうどいいじゃないですか。あとお茶も用意しましょうか?」

「ああ。頼む」


 まだ洗濯物は乾いてないと思うので、お茶を淹れたら私も少し休んでおこう。


 ◇


 次の日は型を持ってきてもらったのでマドレーヌを焼いた。

 まだ冷めていないけど、お茶と一緒に守衛室の方に顔を出しに行こう。オーブンを直してもらったお礼を兼ねてね。


「こんにちはー」

「ユリアさん。どうも。…美味しそうですね。今日は焼きたてですか?」

「はい。オーブンのお礼に」


 いつも通りゼノさんが迎えてくれる。他の方もいつも通りらしい。

 私もいつもの椅子に座って、お茶を注いで、今日焼いてきたマドレーヌを添える。


「アルトさんがお世話してる庭のオレンジが豊作でして、オレンジのマドレーヌです」

「へぇ。オレンジ、豊作なんですか?街だとまだあんまり見ませんけどね」

「うちは豊作でしたけど、…時季じゃないなら病気か虫か何かですかねぇ」


 やはりアルトさんが一枚噛んでるらしいけど、私は知らないので。言われなければ、あえて聞くのは怖い。


「おぉ!美味しいですね!」


 一口食べたところでゼノさんが目を丸くする。彼はいつも新鮮な驚きと喜びを表現してくるから、中々見ていて楽しいのだ。


「冷ました方がしっとりするんですけどね。焼きたては焼きたての美味しさがあります」


 まだあったかくて香ばしくて美味しい。


「もちろんロランさんとエイデンさんの分もありますからね。全部食べちゃダメですよ」

「わかってますって。これは自分の分を食べるのが惜しいですね」


 最初はそんな感じで感想を言いあってから雑談が始まるのだ。


「最近暑くなってきましたね」

「ですね。騎士の方は装備とか暑くないですか?」

「めちゃくちゃ暑いですよ。そんでもって動きますから、とにかく暑いんですよ。夏は参っちゃいます。ユリアさんとか、メイドの方も制服をきっちり着てるじゃないですか」

「お屋敷とか、きっちりしたところでは長袖で揃える時もありますね。でも掃除とか給仕の時は半袖にしますね」


 正装は長袖。キッチンも油が跳ねて危ないから長袖かも。掃除は動くし、給仕の時は季節感も出したいし、飲み物がこぼれて大変な時もあるから、半袖。


「いいですね、臨機応変で。装備は命がかかってますから、手薄にしたらやられます」


 うーん。怖いなぁ。刺されるのかな…。


「そう考えても、騎士のみなさんはすごいですね」


 すっかり茶飲み友達になったゼノさんがため息をつく。


「あー、早くこっちにも後輩が来ないものですかねー…。騎士団なんか余ってる人材ばっかりなのに」

「そうなんですか…私の方も人手を増やしたいですね。私一人でもまあできてますけど、魔法が使えるからですよ。普通の人なら到底無理です」

「大変ですね…そちらも。ユリアさんもちゃんと休んでくださいね?俺たちのお茶の供給のためにも」

「あはは。わかってますよ。待ってる人がいますからね」


 私としてはお昼ごはんとこの時間が休憩だ。あとは大体動いている。我ながら体力ついたかも。

 今度は頑張ってパイとか焼いてみようかな。エドガーさんのお陰で型もせっかくあるんだし。

 あれ?エドガーさんって、何でお菓子を作れるようになったんだろう。

 ちょっと気になったけど、私は次の仕事について頭を切り替えた。



―――――――――――――――

お菓子とかケーキとか高いなーって思うけど、実際に作ってみると肉体労働だから価値がわかるというか。


読んでいただきありがとうございます。

よろしければ応援よろしくお願いいたします。


次話更新は8/28 12時頃です。

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