第27話 何でもない日のとっておきディナー


 朝の皿洗いが終わってから、洗濯には行かず、今日はキッチンに。

 オーブンが使えるようになったし、試運転もした。


「そうなればメインの料理に使いたくなるよねー」


 というわけで、今日はちょっと豪勢にいっちゃいます。

 今朝買ってきましたのは丸鶏とジャガイモ。丸鶏は頭とか足とか内臓が切り落とされた鶏肉ね。ジャガイモはちっちゃいやつがたくさん。


「ふんふふー…」


 まずは足とかを結んで、成形する。頑張るよ。

 丸鶏に塩をすりこむ。にんにくをすりおろしたものとオリーブオイルをすりこむ。

 そして早速だけど今日のポイントは、植物園で採ってきたハーブを使うこと。今回はローズマリーとタイム。材料があれば何か作っちゃいたくなるでしょ?

 ハーブは丸鶏のお腹に詰める。余ったものは細かく刻んでおく。これも使わないともったいないもんね。

 味を染みこませたいので、食料庫に置いておく。

 さあ、洗濯でもして待とうかな。


 ◇


 お昼はアルトさんが外で買ってきたサンドを食べる。サンド屋さんはいくつかあるらしくて、今日は当たりかも。


「植物園のハーブ、いくらか採っていったらしいけど、何かに使うの?」

「使いますよ。楽しみにしておいてくださいよー?」

「期待してもいい感じなの?」

「ええ。期待してくれても大丈夫ですよー?私も張り切って作ってるので」


 私一人で作るのは初めての料理だけど、手伝いはやっていたからできる気がする。ちょっとは料理も上手になったと思うの。


「はは。ご機嫌だね。張り切って作ってるなら楽しみにしてるよ」


 アルトさんもつられて笑う。

 何となくわかると思うけど、私が作ってるのは、その料理のことを考えるだけでご機嫌になっちゃう料理。


 ◇


 そして午後。

 ジャガイモを綺麗に洗って、切る。小さいので半分とか、大きめのは四等分くらいで大丈夫。今日は皮つきでいいね。玉ねぎも切っておくよ。

 陶器のお皿の真ん中に丸鶏をでーんと置いて、オリーブオイルを塗る。その周りにジャガイモと玉ねぎを置く。そして仕上げに刻んだハーブと塩をパラパラとかける。彩りも良さそうだね。それから小さいキューブ状のバターも散りばめておこう。

 最後は少し予熱しておいたオーブンに入れる!


「で、しばらくオーブンに任せると」


 その間に私は洗濯物を取り込みに行く。もう乾いてることだろう。

 今日はよく晴れていて、太陽がまぶしい。洗濯物もカラッと乾いていた。もうそろそろ夏が来るのかな。

 キッチンに向かうと、廊下にまでいい匂いが漂っていた。


「ユリアちゃん、何作ってるの?めちゃくちゃ美味そうなんだけど」


 その横でうんうんと頷くユペさん。金の目がいつもに増してキラキラしている。


「出来上がってからのお楽しみですよ」

「ちぇー」


 口ではそう言いながらも、ジャンさんの表情にはワクワクがまだ残っていた。

 私はミトンをはめて、お皿の場所をちょっと変える。焼き加減も良さそうだから、もう少し待てばいいだろう。




「よし……できましたよー!」


 ミトンをはめた手でそれを持って、ダイニングテーブルのど真ん中にデデンと置くと、みんなの歓声が聞こえた。


「ローストチキンだ!」

「塊の肉ネ!」

「わぁ…久々に見たけどいいね」


 私はそれを目の前で切り分けていく。皮もパリッと仕上がった。その皮にナイフを入れるだけでじゅわっと肉汁が染み出す。


「今日は何かの記念日とかだったか?」

「そうね…何の日かしら。夏至もまだだったでしょう」


 私は切ったものを取り分けながら答える。


「今日は何でもない日ですよ。私がローストチキンを焼いてみたくなっただけです。たまにはこういうのも、いいじゃないですか」


 大皿に残るのは骨と食べないハーブだけ。これもあとでスープのもとにしちゃおう。一度で二度美味しい料理だ。

 切り分けたところで手を洗ってきて、席につく。


「レイ様、せっかく豪勢な料理なんですから、一言あります?」


 ティーカップを持ったアルトさんがレイ様の方を見た。合わせて私たちもカップを持つ。


「そうね…何でもない今日と、ユリアの気まぐれに乾杯」

『かんぱーい!』


 何でもない日に、みんなの声が重なる。

 そして期待のチキンのお味は。


「うまっ!ユリアちゃんこれ超美味いんだけど!」

「これは…絶品だね…!」


 ジャンさんやアルトさんからの賞賛の言葉。

 皮も程よく脂が落ちて美味しいし、ハーブが肉の臭みを消して、いい風味づけになっている。これは我ながらよくできた。


「イモ、美味しいネ!」

「そうですね。皮つきでパリッとできましたから。塩を振っても良さそうですね」


 付け合わせのジャガイモもひょいひょい食べられちゃう。美味しいんだけどこれ。ジャガイモ入れた私天才かな?


「何でもない日でもいいわね、こういうの」

「ええ。たまにはこういうのもいいですね、レイ様」


 今日もみんなに好評みたい。



―――――――――――――――

上手くいっている時ほど、危険が忍び寄ってるもんですよねー


読んでいただきありがとうございます。

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次話更新は8/30 12時頃です。

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