第28話 ある暑い日のこと


「ふー…」


 今日も今日もで初夏の日差しがまぶしい。そろそろ半袖を出した。洗濯するときに水が跳ねて気持ちいい時期になった。

 しばらくじゃぶじゃぶと洗濯したところで、一旦顔を上げる。


「今日は特にあっついなー…」


 洗濯場の屋根の下を風が通り抜けて涼しい。お仕着せのスカートが風になびく。

 こうしているとやはり朝の涼しいうちに買い物に行っていたのは正解だと思う。まだ空気が冷えているから、動いてもまだいいのだ。

 しかしすっかり日も昇った時間となれば外にいるだけでもじんわりと暑い。巡回で森の方に行っている方はきっと涼しいのだろう。

 洗濯物を干す。今日は早く乾きそうだ。全部干したのを振り返ると、洗濯物たちが一斉になびいていて壮観である。

 少しそれを眺めてから、今度は厩舎に向かう。


「お、ユリアちゃん。いらっしゃい。今日は暑いね」

「そうですね。みんなは元気ですか?」


 厩舎に行くとエイデンさんがミラメルのご機嫌取りをしていた。


「こんにちは、ミラメル。今日は暑いわね」


 彼女はぶふーっとご機嫌そうにしている。そしてしばらく撫でていると、手元にぐりぐりと擦り寄ってくる。


「どうしたのミラメル。今日はデレデレね?」

「そうだねぇ。ユリアちゃんが来たのが嬉しいのか?ん?」


 だけどエイデンさんの手はふいっと避けられる。不思議。


「あー?今度はトクソットかー?おやつはまだだぞー?」

「ああそうだトクソット、今日もおやつ持ってきてないや。ごめんね。オレンジが食べ頃だったから持ってきてもらうわ」


 トクソットを撫でているとまたやたらと擦り寄ってくる。


「ユリアちゃん、ニンジンでも切ってきたのかい?」

「んー…切ってないですねー。何ででしょうね?あ、ヴィーノ?ヴィーノもどうしたの?」


 人懐っこいヴィーノも擦り寄ってくる。ヴィーノに関してはいつものことだけど。


「別に変な感じはしないけどねぇ…いつも気に入られてるし、たまにはこういう日もあるかねぇ」

「次の時に何かほしいっておねだりしてるんですかね?そろそろお土産持ってきてーって」

「それかもねぇ」


 今日は何だか馬に好かれる日らしい。

 私は不思議に思いつつ、キッチンの方に向かう。


「あっついなー…」


 何だか、日差しがいつも以上に眩しい。ちょっとくらくらするくらいの眩しさだ。

 日陰を通って、ダイニングの方まで着く。


「ふー…」


 もうそろそろお昼だから、アルトさんが声をかけにくるはずだ。だからそれまで少し休んでいよう。


 ◇◇◇


「ユリアー、お昼買って来るねー」


 今日もキッチンの方に声をかけたけど、何の返事もない。どこか別の場所にいるのだろうか。

 あくまでもここは基地なので、有事の際に隊員がどこにいるのかというのが大事になる。だからいつも通り声をかけたのだけど、


「…あれ?」


 返事がない。いつもならいってらっしゃいと返ってくるのに。

 でもやっぱり何も言わずに出ていくのは良くないので、ダイニングに踏み込んだ。キッチンにもいなければ食料庫かな。

 そう思っていたけど、彼女はダイニングテーブルに組んだ腕を枕にするようにして突っ伏していた。


「ユリア?」


 眠っているのかと思ってそっと近寄ってみても、起きない。

 よく見てみると色白だった顔が赤い。試しに頬に触れてみると、


「あっつ……ユリア、ユリア!聞こえる?」


 熱があって反応がない。これは昼ごはんどころじゃない。

 僕は彼女の体をそっと起こして、医務室へと運んだ。



―――――――――――――――

まだ暑いので気をつけてくださいね(白目)


読んでいただきありがとうございます。

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次話更新は8/31 12時頃です。

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