第12話 食器の山の次は洗濯物の山


 午後もキッチンの復旧作業をしようかと思ったけど、とりあえず最低限の環境は整えられたと考えることにした。かまどやオーブンもちゃんと使えるようにしたいけど、他が使えるから料理はできる。


 次に私が着手するのは、洗濯だ。

 現在この魔法警備隊では、人手不足過ぎるのでお嬢様特権の行使により、週に二度お屋敷の方が来て洗濯物を引き取ってくれる。

 しかし、それでもギリギリなのが現状だ。ダイニングのテーブルクロスはないし、ベッドシーツだって綺麗にしたい。要は大物が洗濯に回されていないのだ。


「またあの魔法で応用できるかな…?」


 というわけで実験材料は私のエプロン。昨日と同様、あの水球に石鹸の粉を放り込む。


「やってみますか…」


 これもエプロンを突っ込む!投げても広がってしまいそうなので、持って突っ込んだ。

 しばらく待ってから取り出すと、大体きれいになった、くらいのエプロンが出てきた。ボロボロになりにくそうなのはいいかな。


「細かい汚れは手洗いか…」


 まあ短時間でここまでできるならいい。たくさんだったらかなりの時間短縮になるのでは?


「そういえば他の洗濯物ってどこなんだろう…」


 少し考えてもわからない。聞きに行く。


 ◇


 どこにいるかは話に聞いていたので、アルトさんを訪ねに行く。場所は一階の研究室。


「アルトさーん、ちょっと聞きたいことがあるのですが…」

「何ー?ちょっと手が離せないから勝手に入っちゃっていいよー」


 そんなに長居する用事はないんだけど…最初からリネン室の場所だけ聞けばよかった。…でも気になるので入っちゃおう。好奇心には勝てない。

 ガチャリとドアを開けると、そこは植物の独特の香りがする空間だった。


「わぁ…」


 窓から燦燦と午後の光が差し込んで、部屋を明るく照らしている。壁の一面は本棚で埋め尽くされて、別の棚には小さな引き出しがたくさん。そこかしこに植物があって、不思議な雰囲気を醸し出す。


「ごめんね、ちょっと散らかってるけど」


 本人はそう言っているけど物はちゃんと整列しているので、雑然とした感じはしない。散らかっているというより、物量が多いというべきか。


「いえ……あの、洗濯物ってどこに置いてるんですか?多分リネン室だと思うんですけど、場所を伺ってなくて…」

「あ、そっか。教えてなかったね。リネン室でしょ?この部屋の左隣だよ。荒れてるから注意してね」


 どんな忠告よ?


「もう一つお伺いしますが、テーブルクロスとか、ベッドシーツとかの大物ってどうされてますか?」

「……君には言いにくいけど、放置してるね」


 予想通りなのでもう驚かない。ここまでの惨状を見ているから今更驚かない。


「そういうものも洗濯するなら、部屋に踏み入るってことだよね?」

「そうですね。洗濯物を出すのは皆さんでもできますが、戻しに行くのは必然的に私の仕事になりますので」


 個人の部屋というのは、かなり気を遣う問題だ。かといって私はそれが仕事なんだけど。


「僕の部屋はそんなに散らかってる方じゃないからいいとは思うけど……他がね…」

「あ、むしろアルトさんはいいんですか」

「別に?いつも人を招いてもいいレベルの部屋にはしているよ」


 ぶしつけな質問にも全然気にしていないと、にっこり優雅な笑みを浮かべる。


「あとは医務室もあるから、そこもお願いできるかな。医務室はここの隣ね」

「はい。もう少し余裕ができたらやらせていただきますね。それではこれで失礼いたします」

「頑張ってね」


 最後に私から一礼して、部屋を後にした。


 ◇


 隣は結構綺麗なのにリネン室は荒れていた。でしょうね。

 山積みになったぐっちゃぐちゃの洗濯物。においとかは酷くないけど、空気が悪い。リネン室ってもうちょっと清潔感を大事にするものだったよね?


「うん…わかってたよ私。そうだよ頑張るんだよ私」


 ざっと見た感じ、大物ばかりだろうか。あとはこまごまとしたタオルとか。服とかはお屋敷に任せているから平気なんだろうね。


「せーのっ!」


 とりあえず替えのベッドシーツらしきものとテーブルクロスを引っ張り出すことに成功した。それと洗濯籠も発掘した。

 外で見た感じあんまり汚れはなさそうなので魔法でいけそう。でも大物だから魔法の維持が大変そうなので、水をためた洗濯桶の中でやる。


「〈泡沫バブル〉…〈渦巻アクア・トルネード〉」


 洗濯桶は中に人が入って踏んで洗濯できるくらい大きいので、渦巻も中々な勢いである。これだけ余裕があれば他の洗濯物も入れちゃおう。


 たくさん洗濯すれば、干すのが大変である。しかも私はそんなに背が高い方じゃないので、余計に大変なのだ。

 先にタオルとかを干して、あとは大物を残すのみ。


「おー、やってるなー」

「エドガーさん!お疲れ様です」


 一旦作業の手を止めて一礼。


「洗濯までやってるのか…お嬢様が呼んだ理由がわかるな…」

「光栄でございます」

「干してんのかこれ、大量だな。手伝うぞ」

「いえ…」

「いいんだよ。テーブルクロスとかデカいからお前一人じゃ大変だろ」


 私が言い返す間もなく、むんずと掴んでいる。


「あああっ! 下、下! 地面につかないように気を付けてください! 下についたらやり直しなんですから!」




 ――干すのはエドガーさんが手伝ってくれたおかげで早く終わりました。

 でも見ててちょっと雑というか、ヒヤヒヤしました。



―――――――――――――――

ユリアは育ちが育ちなので、庶民的だし割とテキトーなところがあります


読んでいただきありがとうございます。

よろしければ応援よろしくお願いいたします。


次話更新は8/9 8時頃です。

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