第11話 専門領域
「ユリアー、お昼買ってき、た…よ?」
戸口には驚愕の表情を浮かべたアルトさんがいた。
「あ、お昼ならそこに……」
「……流しが、流しが…綺麗になってる…!? 嘘だろ…この午前だけで…?」
とても驚かれている。私も魔法が使えなければ大層時間がかかっただろうし、五倍は面倒だったと思う。
「まあまあ、そのお話は食べるついでで」
「あ、ああそうだね…」
ものすごい衝撃だったらしい。
◇
「昨日のあれの応用で!?何回も!?……おかしいってこの子…!」
頭を抱えだすアルトさん。
「水を自分で用意しないだけ楽でしたね。あとはあの水を処理するのが…本当に何を流したんですかやめてくださいよ…。嫌な予感しかしないんですよアレ…」
私も言い返しながら頭を抱えたい気分になった。
「においを中和する薬品なら使ったね」
「それだ…絶対それですって…」
確かにあんな汚かったのに、腐ってるのかと思ったほどなのに、異臭は一切なかった。その薬品の効果は絶大だったらしい。
「あの…その薬品が混ざった水、庭に撒いちゃったんですけど…」
「……どこに?」
いきなり真剣な顔で聞かれるので、素直に場所を教えると、
「変な場所でよかったよ。花壇とか僕の植物園だったらどうしようかと…」
「逆にあれって撒いていいものだったんですか?あんまりにもどす黒いので除草剤代わりに使えそうだと思ったんですけど」
「君の言う通り除草剤のような効果をもたらすかもしれないし、逆に急成長するかもしれない。それか何も起こらないか。わからないからこそ、どうでもいい場所に撒いて正解だよ」
ふー…それなら一安心だ。最悪の場合は庭木が枯れるだけで済む。まだよかった。
「そんなことなら経過観察をするしかないね。君が来てから面白いことばかりだよ」
ペリドットのような目が細められる。それがいいことなのか悪いことなのかはわからないけど、いいことであってほしいね。
「アルトさんは、薬品なども扱うのですか?」
「そうだね。魔法医だからね」
彼は一呼吸おいてから話し始めた。
「僕は魔法医だけど、どちらかといえば研究者に近いかな。メインは植物の研究で、その応用で薬を作ったり、その効果を検証したりしてるんだ」
あの薬品もその一環で作ったらしい。腕は良さそうだ。効果を実感しちゃったからな。
「へぇ…でもそれだと薬師っぽいですね」
「それもそうかな。だけど僕は患者さんの顔が見える方がいいから医者って言ってるよ。わかりやすいしね」
今までの態度や話した感じといい、彼には確かに医者の方が似合いそうだ。
「一応ここは魔法警備隊ですけど、戦ったりは…?」
「最低限身を守れるくらいには強いよ、僕。街だとあんまりだけど、森や草原ならいいね。あとはね、周りが強いんだよ、周りが。僕以外の人たちが強すぎるんだ」
やれやれと、少し呆れた感じだ。レイ様とエドガーさんの強さを知っているから少しはわからなくはない。
「レイ様はひたすら強いし、エドガーさんもめちゃくちゃ強い。ユペさんも相当な手練れだ。ジャンは街の中だったら特に強い」
やっぱり他の人も強いのか.そんなことを考えていると、彼は居住まいを正して、まっすぐこちらを向いた。
「そうだ。いきなり話が変わるけど……ユリア、もう少し余裕が出てきたらでいいけど、魔力量を測定しよう」
いきなり何かと私は目をぱちくりさせた。
「今日までざっと見たところ、君の魔力量は少々…いや、だいぶ多そうなんだ。今は中級魔法までしか使えないとはいえ、自分の限界は知っておいた方がいい。魔力を使いすぎると命に関わるからね。
「はい…」
この国では上級魔法が一つ以上使えるのが正式な「魔法使い」とされている。
しかし私は中級魔法まではどの属性でも使えるけど、上級魔法は使えない。だから魔法使いともいえない。中級となれば魔法は割と使える。でも中途半端なのだ。
「もちろん怖いことじゃないよ。君の安全のためなんだ。恐れることはない」
「では…そうします。ここを回すのに余裕が出てからでいいんですね」
「ここまで何も問題がなさそうだから、急ぐことはないと思うよ」
「そうですか…」
魔力量か。あまり気に留めたこともなかった。
お嬢様に魔法を教わっていた時もあまりそういう説明をされなかった。お嬢様は私に知識というより技を教えてくれた。だからそういうところは詳しくないままここまできたんだよね。
「魔法を使っててクラっときたり、気持ち悪いとか感じたらすぐにやめてね。そのまま使い続けると、死ぬよ。あるいは生き残っても、魔法が使えなくなったり、手足が麻痺したり、目が見えなくなったり…とにかく本当によくないからね」
しっかりと頷く。彼は本気の顔だ。
あまり魔法については学んでこなかったので、その忠告だけはとしっかり頭に刻み込んだ。
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※リアルの世界で薬品とか流しちゃダメですからね!マジで!
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次話更新は 12:15です。
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