第10話 vs腐った流し


「あら、オムレツじゃないの。いいわね」

「おはようございます、レイ様。あともう少しでできますので」

「待ってるわね」


 うーん、今日のお嬢様もとても麗しいな。朝からいいものが見られた。

 魔法警備隊に来て三日目。今日も今日とて朝食を作った。

 今朝のメニューはオムレツだ。トマトが余っているのでケチャップも作った。パンも買ってきたし。


「焼き加減が絶妙だな、これは。屋敷のベルナトさんとそっくりな味だ」

「私なんてベルナトさんには及びませんよ。師匠ほどたくさんのレシピを知ってるわけじゃないですから」

「そのベルナトさんってどなたなんですか?」


 アルトさんが聞いた。


「ベルナトはお屋敷の料理長よ。特に鶏肉の皮をパリパリに焼いたやつが一番ね」


 彼の見た目は屈強な感じなんだけど、料理はとても繊細だった。お屋敷にいたころはまかないを作るついでに色々教えてもらって、私はここまで料理ができるようになった。


「鶏肉のチキンソテーですか。あれの余った鳥皮をパリッパリに焼いて食べるのがおいしかったなぁ…」

「え…何それ絶対美味しいじゃないの。ユリア、今度作って頂戴」

「ユリアちゃん俺にも作ってそれ」

「それはもう少し環境が整ってからですかね、レイ様」


 一人は華麗にスルー。だんだん慣れてきました。

 その裏でエドガーさんが『お嬢様が酒のつまみの味をお覚えになられてしまう…』嘆いていたのを私は聞き逃していない。その際はもう少し上品な感じにアレンジします。


「ユリア、ユぺサン、これ好きネ! 赤いノ!」

「えへへ。ありがとうございます」


 ユぺさんにはケチャップが好評。そういえばこの前の限界トマトスープも喜んでくれたから、トマトが好きなのかもしれない。

 レイ様から食事は一緒にとりなさいと言われて、実際に何度かそうしてみると、全然違和感なく馴染んでいる。

 私はここのメイドで、他の皆さんは正規の隊員なんだけど、皆さんフラットに接してくれている。約一名、見下されているような感じがするけど、その雰囲気に流されないから私はとても助かっている。


 ◇


 昨日と同様、まずは〈そよ風ソフト・ウィンド〉で廊下に風を通してざっと埃を飛ばす。昨日綺麗にしたから楽だね。

 そして今度は外へ。

 あの皿の山の半分は攻略した。残りは……これから終わらせる。


「さて、今日もやりますかー…〈水球アクア・ボール〉…〈渦巻アクア・トルネード〉…〈泡沫バブル〉」


 そして石鹸の粉と丸ヘチマを突っ込む。これで準備完了。

 食器をぽいぽい投げ入れては取り出すのを繰り返す。ただそれだけ。これで綺麗になるなら本当にいいね。なんでもっと早くやらなかったんだろう。

 綺麗にしたものはもう一つ用意したたらいに入れてあって、後で拭けばいいだけという状態にしてある。


「〈強化リィンフォース〉」


 たらいを中に運んで、中で拭く。外だと草とかつきそうだもん。

 これもすぐだ。結構食器の種類は多そうだから、このお皿にはこの料理が合いそうだな、とか考えている。あとは食器の値段とか。ティーカップとか、地味に高そうなものが混じっていて怖い。そのセットが揃わなかったら怖いなとかも考えてる。



 カタン。

 今この瞬間、拭いた食器を全て棚に戻し終えた。


「終わったー! 食器の山が消えたー!」


 諸手を挙げて喜ぶ。超喜ぶよね。あの山が消えたんだよ?見て見ぬふりをしなかった私偉くない?仕事だけど。


「後は……流しの攻略ね…」


 食器の山を攻略しても、流しが残っている。さっきも見たけど、腐った流しと表現するのが一番正しいと思う。

 これもさっきの食器洗いで使った魔法を、流しの中でやればいけるのでは?

 下は何故か詰まっているらしいので、そのまま流しの半分くらいまで水をためる。そこに石鹸の粉を投下。


「〈渦巻アクア・トルネード〉…〈泡沫バブル〉」


 ぐるぐると回りだす水は、すぐに黒くなった。何を流したのよ。流しだからって何でも流していいわけじゃないんだからね。


「変化せよ…〈水球アクア・ボール〉」


 ぐるぐる回っていた水が黒い水の塊になった。そのまま植木の方に移動させて、水を撒く。

 ……後でその辺の木や草が枯れても私のせいじゃないからね。


 二回目も同じことをやってみると、少しだけ水が流れだしていることに気づいた。詰まったものがどうしても取れなければ手で取るしかない。メイドとはいえ、嫌なことは嫌だけど。

 三度目は丸ヘチマを二つ入れた。アルトさんがくれたのは四つだから、できれば潰れないでほしいな。

 ごぽっ。


「ん?……えぇ…」


 その音を皮切りに水が一気にどす黒くなった。何を流してたのよ…

 この水も植木にかけようかと思ったけど、すごくヤバそうな気配がするので井戸の近くとか、草がない方が助かる場所に撒いた。丸ヘチマの回収はできなさそうだけど、除草効果は結構期待できそう…

 そのあと二回くらいやってみたらいい感じになったので、残りは普通にスポンジなどで磨き上げた。

 これで、食器の山と腐った流しの完全攻略成功!


―――――――――――――――

水回りの掃除をちゃんとできる人は偉いと思います。


読んでいただきありがとうございます。

ついにPVが100超えました!金曜までは一日2話更新で行きます!

引き続き応援よろしくお願いいたします!


次話更新は8/8 8:08です。

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