第9話 作業環境がランクアップした料理
「すみませーん、ちょっと買い物に行ってきますね」
「はい。お気を付けて」
昨日も見た守衛さんに話しかけてから、いざ買い物へ。
小麦粉はまだ少しあった。夕飯の分のパンと、それから明日の朝に使えるように卵と、調味料も見当たらないものがあったよね…
色々と買うものを頭の中でリストアップしながら街を歩く。
「こちらのジャガイモいただけます?」
「あいよ。一個四十ゼムだよ」
とりあえず十個くらい買っちゃう。大きめのバスケットを持っているし。
次はパンを買う。パンは焼いてから時間が経っているものらしいので明日の分は朝買おうと決めた。
右手にはバスケット、左手にはパンの紙袋を抱えて歩く。まだ余裕があるから、ほかの野菜や調味料も買って帰ろう。
◇
「よし」
買ってきたものをダイニングテーブルに置いて、キッチンの調理スペースを確保する。そして新しいエプロンを着けて、キッチンに立つ。
まずは昨日使えるようになった手鍋を確認。実は朝のうちに仕込んでおいた豆がある。
「〈
かまどは真っ黒なだけで使えないことはなさそうなので、魔法の火で料理する。薪を用意するのは手間だ。
そしてナイフでジャガイモの皮をむいて切る。ニンジンも同様に。
「包丁って、どこにあるんだろうなぁ…」
ここまで探しても包丁はなかった。どうしてだろう。食費以外に備品として買いたいものがあったら申請すれば買えるらしいからそうしようと思う。
「包丁、無いネ?」
「うわっ!…驚かせないで下さいよユぺさん…」
カウンターからひょこっと出てきた。ナイフとジャガイモを取り落とさなかった私を誰か褒めてほしい。
「包丁、ユぺサン、出すヨ?」
「あるんですか?」
「作るネ!…〈
彼女は両手を合わせ、それをゆっくり広げていくと、一本の銀色の包丁が両手の間に現れた。そしてそれをコトリとカウンターに置いてくれる。
「これで、どうネ?」
軽く握ってみると、持ち手が波打つようになっていて持ちやすい。ジャガイモを切ってみると、サクサク切れる。
「おおー!いいです!ありがとうございます!」
「よかったネ」
めちゃくちゃ切れ味がいい。これはいい。硬いニンジンでも簡単に切れる。
「野菜、獣の骨より切りやすいネ」
「!?!?」
危ない。結構本気で指切りそうだった。ニッコニコ笑顔で言われるとは思わないって、そんなこと。かわいい感じの口調なのに、内容がとんでもなさ過ぎるって。
「ユぺさーん、こっちで待ってましょうよ」
「そうするネ!」
ダイニングからアルトさんの声がかかった。ありがとうございます。ユぺさんと話しながら調理するのってかなりレベルが高いと思います。
さて、気を取り直して。
切ったジャガイモとニンジン、茹でておいた豆を今日洗った大きめの鍋に入れて煮込む。
今度は玉ねぎと買ってきたウインナーを切って、空いた手鍋で炒める。木べらはさっき買った。本当にないと無理だった。味付けは塩胡椒だけ。仕方ないね。
いい感じに火が通ったら鍋に入れて合わせる。いい匂いがしてきた。
その間にパンを切る。パン用の包丁とかが欲しいけど、ユぺさんが作ってくれた包丁で十分だ。ユぺさん曰く、獣の骨も切れるらしいからね…
切ったらオリーブオイルを少しかける。それから塩とハーブをパラパラかける。
鍋の方も味見すると、うん、十分美味しい。
最後に盛り付けをして、完成だ。
「お待たせしました!できましたよ」
持っていくと、皆さんの感嘆の声が上がった。
本日の夕飯は、豆と野菜のスープと付け合わせのパン。パンにも味がつきました。
「スープは鍋からおかわりしていってくださいね」
「ユリアちゃん優秀ー」
「あなたはまずお行儀よく座ってください」
「ちぇー、つれないの」
それからいざ実食してみても好評だった。私もあの作業環境でよくやってるよ。流しだってまともに使えないから、洗い物が減るようにだって考えてるんだし!
「うまいなこれ。短時間で作ったようには思えん」
「本当ですね」
「炒めたウインナーと玉ねぎがあるだけでいい感じになるんです。実は結構簡単なんですよ?」
「これに肉が入ってればよかったなぁ…」
私もそう思うので言い返しはしない。
「ウインナーは肉じゃないの?ジャン。あなたそれも知らないのかしら?」
「ユぺサン、肉切ル?ジャンの肉?」
「やめてくださいユぺさん頼みますからお願いします」
ユぺさんのこと、やっぱり好きかも。今みたいなところは特に。ちょっと怖い部分が他人に向けられるならスカッとしていいね。
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ユぺさんは書いたことないキャラですがいいキャラしてて好きですw
読んでいただきありがとうございます。
よろしければ応援よろしくお願いいたします。
次話更新は8/7 12:03です。
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