第13話 食料庫の魔法陣


「夕飯は何にするんだ?」

「何にしましょうかね。それで何でエドガーさんはついてきてるんですかね」

「荷物持ちにでもなろうかと。早く帰ってきて暇だし」

「暇なんですか…」


 自分から荷物持ちになってくれるならまあいいや。

 さっき時計を見たら、四時過ぎといったところだった。そろそろ店じまいを始めようかとする店通りを歩く。

 荷物持ちがいるならと、まずは牛乳屋へ向かう。


「あ、すみませーん。牛乳二瓶と、バター一つ下さい」

「あいよ。まとめて二百五十ゼムだよ。待っとって」

「はい」


 斜め後ろから、視線。


「…随分と本格的な荷物持ちだな」

「持てあますわけにはいきませんよ、エドガーさんを。…あ、生クリームもある!おじさん、生クリームも一瓶お願いします!」


 奥から出てきたおじさんが、百ゼムだよと言いながら商品を持ってきてくれる。


「四百ゼムでお願いします」

「あいよ。五十ゼムのお返しね。気を付けてね」


 重い瓶とかはまとめてエドガーさんに持ってもらって、さあ次に行こう!


 ◇


「結構買ったな…」

「食料庫が空っぽなんですもん。私だけじゃこんなに買えませんし」


 そう言って食料庫を開ける。まだがらんどうの部屋だ。


「牛乳とかは日陰にお願いします。パスタはこっちですね。野菜はそこの籠に」


 エドガーさんとテキパキしまっていく。


「ここもよく片付けたもんだな」

「前の料理人さんが綺麗にしてたみたいで楽でしたよ。あのどす黒キッチンに比べたら」

「…どす黒キッチン…」


 あなたはどす黒くした一員ですからね。


「あと食料庫を掃除してたら、魔法陣があったんですけど…あそこ、わかりますかね?」

「魔法陣?」


 私が指差したのは、棚板の間の壁の真ん中にある魔法陣だ。大きさは大体私の手をめいっぱい広げたくらい。


「何でしょうかね?魔法陣だってことはわかりますけど、式はわからないんですよ、私」

「…魔法陣ならお嬢様かアルトの方が詳しいだろう。聞いてみるか」


 彼は最後にジャムの瓶をしまって、そのまま行ってしまった。


 ◇


「……魔法陣?何で食料庫に」

「それが本当なんですよ」


 そうしてレイ様とアルトさんを連れてきてくれた。多少狭いけど。


「ほらここに。ユリア、昨日見つけたんだよな?」

「はい。掃除してたら見つけまして」


 一旦私とエドガーさんは端によけて、魔法に詳しい二人に見てもらう。


「本当だ…何の式でしょうかね、レイ様」

「ちょっと暗いわね、ここ。また昼とかに見ることにしようかしら」

「……〈点灯ライト〉。これでどうですか? あんまり時間は持ちませんが」


 詠唱とともにアルトさんの手から光の粒がこぼれた。


「あら…やるわね、アルト。…それでこの式は…」


 二人がぶつぶつと会話をしているが、私には何のことやら。隣にいるエドガーさんと顔を見合わせると、彼もまたさっぱりという顔をしている。


「…これ、冷却と保存の魔法ね。食料庫なんだから考えれば当然だったわ」

「起動してみますか?必要な魔力もそれほどなさそうですし」

「式から考えて私の方が適任ね。――〈起動アウェイク〉」


 レイ様の指先が魔法陣の六芒星の中心に触れると、魔法陣が青白く光った。その光はまるで導火線をなめる火のように石の隙間をたどって、部屋全体に広がる。


「しばらくすれば涼しくなって食品の保存がしやすい環境になるだろうね。何も用がないなら長居は無用だ」


 私も続いて出ていこうと思ったけど、夕飯の材料を持って行ってないと気づいて慌てて回収した。


 ◇


 さて、今日の夕食は。


 まずは一昨日から余ったトマトを切る。古いからぐちゃぐちゃになるかと思ったけど、ユぺさん包丁ならそんなことなかった。ありがとうございますユぺさん。

 大きなお鍋にたっぷりの水を用意して、沸かす。今日はパスタ。せっかく買ってきたんだもん。

 その隣で刻んだニンニクを軽く炒める。少ししたらオリーブオイルも入れて、みじん切りの玉ねぎも投入。透明になったところで、トマト投入。煮詰まってきたら厚めに切ったベーコンも入れてじゃじゃっと炒める。最後に牛乳、生クリーム、バターを入れてフライパンは待機。


 パスタを茹で始める。道具は見当たらなかったので買った。考えてみれば、料理人さんは自分の道具を持って然るべきだよねと思い始めている。今更だけど。

 しばらく待ったら茹で加減の確認に一本だけパスタを食べる。


「んー…まあいいかな」


 パスタが茹であがったら、隣のフライパンに入れてソースをよく絡める!味もここで微調整。

 それを並べておいたお皿に盛り付けて、胡椒を挽けば、完成!


「今日はトマトクリームパスタです」

「トマト!」


 トマトがお気に入りのユぺさん、歓喜。ルンルンでお皿を運んでくれる。


「パスタも久しぶりですねレイ様」

「そうね。美味しそう」


 にこにこと微笑み合うレイ様とアルトさん。絵になるね。


「肉はある?」

「ベーコンは厚めに切りました」

「ユリアちゃんナイス!」


 親指を立てるジャンさん。そうですかそうですか、あなたは肉だけで機嫌が取れるんですね。安上がりで結構です。

 お皿をコトリとダイニングテーブルに置いたところで、あることに気づく。


「あ!洗濯物!!」



―――――――――――――――

地震大丈夫ですかね…


読んでいただきありがとうございます。

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次話更新は8/9 18時半ごろです。色んな時間に更新してみます

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