第39話 採用選考・第二部


「――って感じでして。今日採用してきた人については以上です。質問等はございますか?」


 見回しても特に質問等はないみたいだ。


「実際に見てみないとわからないし、ユリアが納得して選んだならいいわ」


 周りも同じくといった様子だ。


「あと庭仕事の方はアルトに任せるわね。私もアンドレのことは知ってるし、腕はよかったと伝えておくわ。あとはこっそり庭の花をくれたこともあったし、気のいい人よ」

「参考にしますね」


 ニコニコと微笑み合うけど、謎の緊張感がある。まあ完全に信じちゃってもダメだからね。自分の目で見ないとわからないことだってあるし。


「リックとアンドレさんですかー。他の人のことは知らないですけど、これまたいい人を抜いてきましたねー」

「コナの口利きも若干あるわよ。会ってみていい感じだったし、ステファノさんとフィアさんとセッラと一緒にめっちゃくちゃ会議したんだから」

「わぁー…そのメンツなら確実に行けますねー…」


 お屋敷の使用人のトップを交えた採用選考だ。盤石の体制過ぎる。

 きっと普通の使用人採用でももっと緩いはずだろう。あそこはできるだけ多くとって、無理そうならどんどん落とす形式だからね。

 あとお屋敷は魔法警備隊に対してやらかしてるので、ちゃんと誠意のある対応をしないといけないというのもあるだろう。


「で、コナはその二人が来て二日経ったらお屋敷に戻るってことね。テオ坊ちゃま、待ってるんじゃない?」

「えぇーそうだといいなぁー。坊ちゃま、私のこと忘れてないといいなぁ」

「忘れてないわよ。まだ二歳だけど、よく世話してくれる人は覚えてるはずよ」


 …なんてメイドトークをしていた。奥様とか坊ちゃまにも会っていきたかったけど、それはまた今度かな。


 ◇


 予定の日は、朝からちょっと曇り気味だった。でも最近は暑いから丁度いいくらいだ。


「よろしくお願いします!」

「よろしくお願いしますね」


 元気のいいリックと、穏やかなアンドレさんににっこりと返す。


「はい、お待ちしてましたよ。門を通るときは必ず声をかけていって下さいね」


 建物まで軽く説明しつつ歩く。留守番は私とアルトさん。みなさん朝食をとったら外の森や畑の方を見に行っている。これは本当に外せないからね。

 玄関ホールにはアルトさんが待ち構えている。


「ようこそ。魔法警備隊員のアルトです。そちらが使用人のリックと、庭師のアンドレさんですね。他の隊員は巡回に出てますので、ここは僕が引き受けてます」


 そして予定通り二手に分かれることにした。アルトさんはアンドレさんとお話するそうです。何するんだろうね。私とリックは早速色々仕事するけどね。そこに、止められない仕事があるの。


 ◇


 ざっと建物と他の施設を案内してから、二階の居室の方に。


「じゃあまず掃除からね。ここの部屋があなたの部屋ね。隣はアンドレさん。二部屋、綺麗にしてもらうわ。掃除用具が廊下にあったの見たでしょ?他に必要なものがあったら言って」

「はい」


 一気に言って部屋の外からその様子を眺める。

 パッと見手際は良さそうだからいいかな。あと個人の居室や倉庫などの重要な場所には鍵がかけてあるし、私も自分の仕事をやらなくちゃね。


「私は廊下を掃除して、それからは洗濯してるから。終わったら私のところに来るようにしてちょうだい」

「わかりました!」


 私は廊下に出て、〈そよ風ソフト・ウィンド〉で廊下の埃を飛ばしながら外に出た。最近はこんなこともできるようになりました。

 アルトさん曰く、昔よくいたという冒険者の間では、「新人が魔法を使いすぎて倒れて、復活すると一皮むけたようになる」と言われていたそうだ。でも命に係わることもあるほど危険だからゆっくり慣らしていった方が安全って言われてたけどね…。意図せず危険な道を歩んでたみたいだよ私。

 …なんてことを考えながら普通に魔法を使います。


「〈泡沫バブル〉…〈渦巻アクア・トルネード〉」


 もう魔法を使った洗濯にも慣れてきた。すぐ終わるからいいよね。目立つ汚れがあればそこはまた後で手洗いだったんけど、最近は慣れてきて同時進行できるようになりました。

 …一皮じゃなくて三皮くらいむけてないかな…?


「ユリアさーん、終わりました!干すの手伝いますね」

「じゃあ大物をお願い。細かいのは私がやるわ」


 うんうん。自分から進んで手伝いますって言えるのはポイント高いよ。


「リックはいつからお屋敷に来たの?」

「十三の時です。うちの実家の商会がお屋敷と繋がってた方がいいって送り込まれました。でも将来的に考えたら安定してそうなので僕は別に良かったんですけど」

「確か三男だったでしょ?」

「はい。一番目の兄さんが商会を継いで、二番目の兄さんは各地に旅に出て、商品を探してるんです」


 そこまで考えてお屋敷に来たとか…随分しっかりした子だ。


「私のことは知ってた?あんまり関わりはなかったけど」

「はい。コナからよく聞きましたよ。あとはまかないもちゃっかり食べてましたね」

「暇なときはキッチンに行ってたからなー。ベルナトさん、すぐ何か試食させてくれるし」

「羨ましいですねー」


 こういう使用人トークって結構人の本質が出ると思うのね(私調べ)。これは結構いい子を選んだのかもしれない。



―――――――――――――――

リック、お前その歳でそんなこと考えてんのかよ。


読んでいただきありがとうございます。

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次話更新は9/11 12時頃です。

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