第35話 ヘッドハンター・ユリア


 今日はおよそ三か月ぶりにお屋敷に行く。近くの道までくると懐かしさと緊張で不思議な気分になった。

 門番の方にも話は通っているみたいで、すんなり通してくれた。六年働いていた場所なので案内なしで応接間まで辿り着く。

 ああ、言い忘れてた、今日は使用人の採用選考をする。

 この前、募集したい人の条件を考えた。それを踏まえてお屋敷の使用人向けに募集をかけてみた。契約条件とかはレイ様をはじめとした魔法警備隊のみんなにも見てもらって、ちゃんとした書類にした。

 条件は以下の通り。


・家事全般ができる

・住み込み(できれば単身者がよい)

・性別は問わない

・体力があってできれば若い人


 そしてアルトさんが庭仕事の手伝いができる人も欲しいなと言っていたので別枠で庭師の募集もかけた。アルトさんがもっとフリーに動けるようになれば、レイ様が結婚するとなっても引き継ぎが楽にできそうだからね。

 庭仕事の条件は以下の通り。


・年齢性別は問わない

・植物の育て方に詳しい

・薬草の知識があるとなお良し


 庭仕事の方は庭師の人でいればいいかなって感じ。もしお屋敷の方でいればアルトさんに引き継ぐという感じである。

 その結果、合計六人の希望者が出てきた。




「今日はよろしくお願いします。ステファノさん」

「よろしく。まさかあの小さかったユリアとこんな風に採用選考をするとはね…」

「どこまで昔のこと思い出してるんですか…」


 そういうわけで本日は執事のステファノさんと採用選考をやっていきます。

 ステファノさんからは礼儀作法を教わった。厳しいところもあったけど、ずっと差別せずに扱ってくれた、とても懐の深い人だ。なんだか懐かしい気分。


「希望者の特徴をまとめたのがこれね。私とフィアからのコメント付きで」


 中身を見てちょっと背筋が凍った。恐ろしく細かく分析されてる。ステファノさんは中立な立場で書いていて、フィアさんはちょっと辛口評価だ。もしかして私もこのくらい色々思われてたり…なんて思っちゃう。

 …でもまあ今回は私じゃないから!そうだよね無事だよね!

 一応知っている人なので書面の情報と私の記憶を照らし合わせて考えていく。あまり関わりがなかった人もいたから、そのあたりはどんな人か聞きながら考える。


「…この二人はナシですね。落とします」

「おや、早いね。何か決め手はあるのかい?」

「この人たちからは前にちょーっと差別的な物言いを聞いたというか。魔法警備隊うちには色んな人がいるので。そういう人たちはいらないです」


 身分と役職のあるレイ様。騎士としても名を馳せるエドガーさん。振る舞いからして(多分)貴族のアルトさん。異国から来たユぺさん。娼館街生まれだけど実力はあるジャンさん。そして孤児だったメイドの私。

 このように、うちはかなり多様な人間が集まっている。だから差別をする人なんか絶対にいらない。多分レイ様も仲間の方が大事だろうから、見たら速攻で氷漬けにして外に放り出すと思う。冗談抜きでね?


「ふうん…ユリアは人を見る目があるね。私もこれは他所にやれないと思っていたんだよ。うちに勤める分にはいいんだろうけどね」


 ステファノさんはよくできましたとにっこり微笑んだ。目じりに深い皺が刻まれた、年季の入った微笑みである。


「…仕込んでおいたんですか?」

「いいや。仕込みではないよ。きっと彼らは、そちらにいる使用人がきみだけだろうから偉くなれるとしたんだろうね」


 ちょっとそれはムカつく。舐めないでほしいね。その二人は確かに私より年上だったけど、年齢と性別だけで見てくるのか。うち、結構ハードモードですけど?そこも舐めてもらっちゃ困りますね。


「あとはユリアの見る目を試したのもある。確かに彼らは優秀だ。でもいるべき環境があると思うんだよ。その人が最大限に輝ける環境に案内するというのも、大事なことだよ」


 お屋敷では貴族の主人とそれに仕える平民の使用人いう明確な違いがある。だから忠実に仕事をしているのだと思う。


「ユリア、きみは今いる場所の方が息がしやすいかい?息がしやすいなら、きっときみはその場所で輝いているはずだよ。そんな風に考えてごらん」


 うちはお屋敷とは違う。仕えるというか役割分担をしているだけの『仲間』なのだ。うちは身分の差はあるけど、もっとごちゃごちゃしていてフラットな関係だから。

 私は、そちらの方が毎日が楽しいと思うようになった。


「…輝いてますか?」

「そうさ。目を見ればわかる。勤続三十二年、今や執事にまでなった私の見立てさ」


 碧眼がこちらを見据え、それから優しく細められる。

 ステファノさんはなんて言うのかな…よく遊んでくれた親戚のおじさんみたいな関係かも。私の親族はいないけど、世の中にはこんな人がいた。


「じゃあ選ぶなら、魔法警備隊で一緒に輝ける仲間を探さないとですね」

「そうさ。私のところから引き抜くからには、育てた私にも責任がある。協力は惜しまんよ」


 この人が協力してくれるなら、いい人を見つけられそうだ。


―――――――――――――――

悪かったのはあのご当主様だったんですよ。使用人の彼らは悪くないんですよ。

あとこの章は10話くらいで終わります。


読んでいただきありがとうございます。

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次話更新は9/7 12時頃です。

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