第34話 下っ端のつどい


 ある昼下がりのこと。この前は心配をかけたのでお茶とクッキーを持って守衛の騎士の方を訪ねた。

 今日の話題はいつもの雑談じゃなくて、ちょっと真面目な話だ。


「――私の方はそんな感じで考えてるんですけど…騎士のみなさんはどうなんですかね」

「そうですね…騎士団員から俺くらい若いのを二人か三人入れようって話になってますね。流石に人数が少なすぎましたので」


 ゼノさんは真面目な顔で言ってからお茶を飲む。今日はオレンジのスライスを浮かべてみました。


「ああ…そうですよね。馬の世話もやってもらってますし」

「馬についてはですね、いっそエイデンさんに馬の世話を一任しようって話になってるんです。家庭があるから危険な仕事はしたくないし、ここの馬も懐いてるからって」

「手が回らないのでちゃんと人がつくなら助かります」


 あの馬好きのエイデンさんがそのまま馬の世話係になるのか。今までのこともあるから私たちも信頼できるし、馬からの信頼も厚い。人懐っこいヴィーノも食いしん坊のトクソットもツンデレなミラメルも、なんやかんやでエイデンさんのことが好きみたいだしね。


「ここの分署隊長はそのままロランさんに任せるんですか?」

「ええ。『安定してて給料も増えるなら続けて稼げ』って嫁さんに言われたらしいんです。…寝てばっかりですけどね」

「そこは朝早くから来てくださってるので仕方ないですよ。人数が増えるならもう少し時間の融通が利くようになるといいですね」


 騎士の方も大変なのである。


「それからですね、騎士団のトップも変わることになったんですよ。今の団長はサントロワのご当主から俺たち魔法警備隊分署について圧力をかけられてたので、そこはけじめをつけるべきだって」

「おおー…」

「ご当主様がレイ様に結婚するように圧をかけてたんでしたっけ?やり方が男らしくないですね。もっと堂々としろって思いますよ」


 ゼノさんも言うねぇ…。迷惑かかってた側だしね。私も言いたいことはあるけど。


「そうですよ。才能が負けてるのは事実だし、他のお姉様方がご結婚なさってるんですし、そこまでやる?って感じがしますもん。やり口が排水溝くらい汚いです」

「排水溝…っはは、言うねぇユリアさん」


 思わず吹き出すゼノさん。

 排水溝は私の中でかなりの暴言です。排水溝はいくらやっても綺麗にならないもん。それにここに来てあの危険な流しに遭遇したもんね。それから私、生まれはあんまりよくないので元々の言葉遣いは結構悪い方だったんですよ?


「ユリアさんの方はどうするんですか?使用人も雇うことにするって聞きましたけど」

「そうなんですよね。今のところは料理人以外で、若い人を探そうって考えてるんです。部屋数のこともあってあんまり多くの人には来てもらえないし、体力がないとやっていけませんから」

「心当たりはあるんですか?」

「お屋敷には私も勤めてましたから…一緒に来てほしい人もいるし、この人は無理だなって人もいますね」

「ユリアさんも無理だなとか思うんですね」

「思いますよ。私そんな聖人君子じゃないですから」


 同年代なのにずっと邪険に扱ってきたり、陰口を叩いてくる人がいたのを私は一人残らず覚えている。今はそんなことも少なくなったけど、そんな人間はこっちから願い下げだ。

 人数が少ないと大変なことも多いけど、お互いの距離が近いのがいいと思う。実際来てみるとすごくいい。私にはそっちの方が合っていたのかも。私の生まれや見た目はどうにも目立ってしまうらしいから、すぐに情報共有ができて慣れてくれる方が助かる。

 こうしていると、私はもう魔法警備隊の人間なんだなと実感がわいてくる。実際、ちょっと魔法は使えるし。


「それに選ぶ側となれば、ユリアさんの後輩ってわけなんですかね?」

「そこはあんまりこだわりませんね。とにかく条件に当てはまればいいって感じです。人格がいいのは前提条件ですけどね」


 言ったところであることに気づく。


「待って…騎士の方にも後輩が来るってことですよね?!」

「そう!そうなんですよ!やっと下っ端卒業!」


 ガッツポーズで喜ぶゼノさん。おめでとうございます。後輩が欲しいってよく言ってたからね。


「しかもですね!団長が変わるしここも人数が増えるってことで昇進するんです!」

「おぉー!昇進!よかったですね!」


 昇進おめでとうございます。お互い実現したら何か作ってこようか。


「っていうことはユリアさんも実質昇進では…?」

「昇進ですかね…?!」

「昇進ですよ!」


 シンプルに喜ぶ私たち。やっぱ今度何か作ってこよう。材料奮発しちゃおうかな。市場で気になってた材料とか買っちゃう?


「あ!いたいたーユリアさん。探したんですよー?こんなところで油売ってるなんて」

「あなた空気読めないとかタイミング悪いとか言われない?コナ」


 ノックもなしにドアを開けてスルっと入ってきたのはコナだった。


「今昇進祝いしてたのでちょっと待ってもらっていいですか?」


 ああっ…ゼノさん…すごく丁寧に「帰れ」って言ってる…!


「いえむしろ楽しそうなので混ぜてくださいよ。さっきクッキーサンド作ってきたんですけど」

「…コナもコナだったよ!?でもいいやしょうがないクッキーサンドあるなら許す!」


 もういいや今日くらいは!



―――――――――――――――

ささやかなパーティーくらい許してやってください。


PVが700超えました…!

私としてはとにかく読んでくれる人がいるだけいいんです。刺さる人に刺さってくれれば。

引き続きよろしくお願いいたします。


次話更新は9/6 12時頃です。

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