3章 攻略できても仲間がいた方が安心

第33話 真面目なのは長所、真面目過ぎるのは短所


 さて、新しい使用人を雇うことになりました。採用担当者は私。

 そこが問題なんだよね。そういうこと教わってないし採用にも関わったことがない。そもそもお屋敷の使用人はそれなりの身分があって、紹介されて来てる人なんだから。私なんかは例外中の例外。


「コナはどんな人がいいと思う?」

「そうですねー、私はかっこよくて生まれもはっきりしてて、浮気しなくてちゃんと稼いできてくれる人ですかねー」


 …違う、そうじゃない。誰が理想の結婚相手の話を振っただろうか。


「…コナ、そうじゃなくて、あなたの後釜よ。誰か採用しない限りはあなたずっとここで働くのよ?」

「珍しく真面目でカタブツなユリアさんが恋バナを振ってきたと思えば、そんなことでしたか。仕方ないので考えますけど」


 うーんそうだなーと考え出すコナ。ここで私が怒らなかったのを褒めて欲しいね。そもそも恋バナとか振ってないし!コナが勝手に勘違いしたんでしょ!

 …あと確かに真面目とかよく言われるけど!真面目で悪いですか?

 いやでもちょっと前に「仕事に一生懸命なのはいいけど、くれぐれも夢中になりすぎないでね」なんてアルトさんから言われなかったっけ…


「ユリアさんが何をしたいか、じゃないですかね?ユリアさんの仕事を代わりにやる人だと多分嫌なはずじゃないですか。そうなると、出来ないことをやってくれる人と協力するのが一番だと思いますよー」

「あー…なるほど…」


 確かに、自分が暇になるのは嫌だ。精々手伝う範囲で十分だと思う。

 付き合いの長いコナもその辺はわかっていて、私が任せた仕事と、手が回っていない分をやってくれている。


「ユリアさんは何をやりたいです?」

「そうね…料理は外せないかな」


 ここで料理を振る舞うようになって、「美味しい」と言われる瞬間が好きになった。そこは外せない。料理は手間がかかるけど、みんなが美味しいと喜んでくれると、私も嬉しい。


「じゃあ料理人以外ですねー。それから若い人がいいと思いますねー。ここの仕事量だと体力がないといけないですから」

「それもそうね。ベテランの技術が必要な場所じゃないから」


 お屋敷では綺麗に並べるとか、隅々まで掃除するとか、そういった技術が求められることが多い。しかし、魔法警備隊ではそんなものは必要ない。とにかく、仕事量。労働力が欲しいのだ。

 こうして、基本的な条件は決まった。でも、実際どんな人に来て欲しいかはまだ決めかねている。


 ◇


「うーん…」


 使用人を引き抜くといっても、条件は決まったから次はどんな人物がいいか。夏の陽光の下で洗濯物を取り込む。


「ユリアちゃん、なんか悩み中ー?俺でいいなら相談乗るよー?」


 とても頼りにならなそうな雰囲気で聞いてくるジャンさん。猫の手でも借りたい気分だから言ってみることにする。


「お屋敷から使用人をいくらか引き抜く話になってたじゃないですか。アレ、どうしたものかと」

「…俺、その手の相談向いてないわー…」

「あなたが言えって言ったんじゃないですか」


 もう三ヶ月近くここにいると、人の扱いにも慣れてきた。ジャンさんは多少雑なくらいでいい。みんなもちょっと雑なくらいであしらってるから。


「ユリアちゃんが来て欲しいなーって思う人に声かけたら?」

「そんな有能な人が来られる訳がないです」


 何人かパッと思いつくけど、それは”頼りたい人”なんだよね。それはちょっと違うかなと思う。


「じゃあ普通に募集して試験とかするんじゃない?ユルいし人は少ないけどサボる場じゃないんだし、ユリアちゃんが来てほしい人を選べばいいでしょ」


 そんな偉そうなことしていいのかな。かつては同じ場所で働いていたというのに。

 彼は風に揺らぐ洗濯物をつんつんとつついて言った。


「…ユリアちゃんがどんな人を求めてるかはわからないけど、仲間になれるかなってヤツを探せば?なんか堅苦しく考えてるんじゃない?」


 ユリアちゃんなんかカタいし、なんて言われる。そうですかね?あなたが軽いんじゃないですかね?

 でもちょっと一理ある。同じ使用人として接することが多いはずだから、いい仕事ができる仲間の方がいいだろう。効率がいい仕事が出来ることも大事だけどね。


「あとはさ、ユリアちゃんはもう俺たち魔法警備隊の仲間なんだからさ、好きなようにしていいんじゃない?やっちゃっていいって許可もあるんだし」


 彼はいつもヘラヘラチャラチャラしていて、軽い人間だと思う。それからちょっと失礼だし。

 でもそれが時にいい時もある。


「…やっちゃいますかね」

「おぉー?やっちゃうー?」


 私はパンッと乾いたタオルを張る。


「というわけで手始めに洗濯物取り込んでくれませんか?私まだ忙しいので」


 トルマリンの目を見開いて一瞬きょとんとした彼は、一気に吹き出す。


「…あはは、こうなってくると早く人を雇わないとねー」

「…暇なのに手伝ってくれないなんて、ひどい人ですね」


 彼は一気に面食らった顔をした。

 ふっ、ちょろい。


「〈そよ風ソフト・ウィンド〉」


 そうして彼が魔法を使えば、あっという間に終わる。洗濯物が宙を舞って、畳まれて手元にたどり着くのだ。大きなシーツなんか、ユペさんから聞いた砂漠の国の魔法のじゅうたんみたい。


「これでいいんでしょ」

「ええ。助かりました」

「また倒れられてもイヤだからね」


 軽くてチャラチャラしてるけど、強くて、根は優しい人だというのも、私は知っている。


―――――――――――――――

始まりました、3章です。やっと分けました。各タイトルは後付けですw


読んでいただきありがとうございます。

600PV超えました!とりあえず見てもらえてるだけでも嬉しいです!


次話更新は9/5 12時頃です。

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