第32話 和解成立


 そして昼には異例なことに、正式な隊員の皆さんと、使用人の私とコナ、騎士のロランさんまでもが執務室に集まった。


「みんなご苦労様。早速だけど、これまでの魔法警備隊の処遇と、これからどうなるか説明してもらうわね。ステファノ、お願い」


 レイ様に呼ばれたステファノさんは、いつものように背筋をピンと伸ばした。


「サントロワ家当主、アズール様の名代で参りました。書状を代読させていただきます」


 彼の落ち着いたバリトンボイスを聴くと、その下で働いていた私としては背筋が伸びる。


「これまで、我が領を守る重要な役目を持つあなた方に、大変な無礼と苦労をかけていた。本当にすまなかった。これからは、人員の増加と福利厚生の向上を約束する」


 書状はもう少しあるらしかったけど、そこからはレイ様が引き継ぐ。


「これはあの当主のお兄様の正式な謝罪よ。本当はここまで引き摺り出そうかと思ったけど、書状を書いて、サインまでさせて、ステファノも寄越したからまあいいわ」


 うっわお嬢様…どこまでやってるんですか?みんなちょっと青ざめてますよ。


「話の内容はわかったわね?それに伴って、騎士も増えるし、使用人も増えるわ。騎士団とのやりとりはロラン、あなたに任せるわ。書状ももぎ取ったから見せつけて差し上げなさい」

「わかりました」


 これで後輩も出来るかもですね…ゼノさん…。いっつも言ってたからな。


「そして使用人の方は、ユリア」

「はい」

「あなたに任せるわ。ステファノにも言ってあるから好きなようにお屋敷からスカウトしなさい。コナはそれまでここの手伝いね。あなたはテオの世話係でしょうから」


 私とコナは同時に頭を下げる。顔を上げると、ステファノさんがにっこりと微笑みを向けてきた。これは本気で許可をもらってるらしいね…!


「あと他のみんなには少し給料とか予算の増額を約束させたと言っておくわ」


 レイ様は華麗にウィンク。他の方々も嬉しそうな雰囲気がする。


「ステファノ、書状はそこね。わざわざありがとう。門まで送るわ」

「はい、お嬢様。皆様、私はこれにて失礼いたします」

「門まででしたら私もお供いたします!」


 彼らが出ていっても、みんな黙ったままだ。みんな、まさかここまでとは…と思っているのだから。ユペさんは半分わかったようなわかってないような顔をしているけど。


「…本当に何したのお嬢様…」

「そうだよね…貴族サマって全然頭下げないんじゃなかったっけ…?」


 そっと書状を見ていたアルトさんが言った。


「これ…結構なことじゃないかな…?ざっと目を通したんだけど、かなりしっかりした謝罪だね。補償とかも、ちゃんと決めてきたみたいだ」

「それで、ざっくり言ったのがさっきの話ってことだな」


 エドガーさんも納得らしい。


「ちょっと文句くらいは言いたいですけどね」

「いいんじゃない?ユリアには実害があったんだし。今はもう魔法警備隊の人間なんだから」

「え」


 サクッと言ってきますね、アルトさん。…いいんだ…。


「それでこちらへの条件が…」

「ただいま!やっと帰れたわよ!お兄様ったら頭が固いんだから」


 レイ様は整った顔をむすっとさせながら入ってきた。せっかくの整ったお顔が台無しですよ。


「エド、アルト、こっちで何もなかった?」

「ええ。大きな問題はありませんでした」

「何とかやりくりしましたよ」

「ユペさんもジャンも平気だった?」

「無いネ。おかえりネ、レイ」


 ぎゅーっとハグするユペさん。あんまり言うことはなかったけど、彼女なりに心配していたんだろう。


「俺には無いんですかー?」

「お嬢様に触るな、無礼者」


 両腕を広げていたジャンさんは、エドガーさんにペシっと頭を叩かれた。いい音だったね。


「ジャンは相変わらずね。ユリアは…もう大丈夫そうかしら」

「はい。もうすっかり良くなりました。ご心配をおかけしました」

「よかった…」


 ぎゅっと抱きしめられる。相当な心配をおかけしました。私には色々込み上げてきて、返す言葉も見つからなかった。


「コナもありがとう。もう少しあなたを借りるわ」

「はい、お嬢様。私もご主人様には思うところがありますからねー」


 顔を上げたコナはニヤッと笑う。食えないね。


「あら、屋敷のあなたたちもお兄様に色々言って差し上げなさい。思い上がるなって」


 こういうところを見ていると、レイ様は本当に敵に回したらいけないと思うなぁ…。カリスマ性もあるし、本人も強いし。

 何なら多分お一人で屋敷を制圧できると思う。普通の人と魔法使いの違いはそれくらいある。一騎当千って感じだね。昔の戦争ではたった一人の魔法使いが一国の軍勢を滅ぼしたって伝説もあるから。


「今日戻って来られるとわかってたなら、美味しいものでも用意してましたよ」

「いいの。ユリアも含めた、みんなが元気でいつも通りなのが私にとって一番よ」


 彼女は女神のような笑みを浮かべた。

 ああ、この方だ。私の人生を変える魔法をかけてくれた人。戻ってきてくれた。

 私はそこで深々と、いつも以上に綺麗に礼をする。尊敬と真心を込めて。


「お帰りなさいませ、レイ様」

「ええ、ただいま」


―――――――――――――――

これで2章終わりです!投稿はこの後も連続していきます!


読んでいただきありがとうございます。

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次話更新は9/4 12時頃です。

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