第31話 復活


 それから私は合計三日も寝かされた。熱は一日で下がったけど、過労もあるからとアルトさんから休むように言い渡されたのである。最後の方は仕事がしたくてたまらなかった。もう元気なのに。

 仕事の合間を縫って私のところに来たコナが、


「ユリアさんあれを全部一人でやってたもんですか!?体力おばけのフィアさんくらいじゃないと無理ですよ?」

「あはは…私は魔法アリだったから…」

「でもぶっ倒れてるじゃないですかー!」


 事実である。ちょっと笑えない。


「レイお嬢様、相当お怒りでしたよー?庭の噴水を氷漬けにしたとか。周りもちょっと氷漬けにしてバッキバキにしちゃいましたねー」


 何やってんのお嬢様。噴水氷漬け?


「あれなんですよー、ご当主様、レイお嬢様に魔法警備隊を引退してもらって、結婚させたかったんです。それで使用人とかも限界まで減らして、快適なお屋敷じゃないと暮らせないだろうって圧をかけてたって」


 それであの環境だったのか。流石にないと思っていたけど、それがまさか意図的なことだったとは。


「魔法警備隊は思いっきりとばっちりじゃない…!」


 無関係のアルトさん、ユぺさん、ジャンさんも巻き込んだとなると、私も怒りがこみ上げる。民を困らせてどうするのよ。


「あ、でも、前の料理人さんの場合は地元のお母さんが病気になったからってのは本当で、侍女を追い返したのも本当らしいですよ。侍女の方は何やらご当主様の息がかかった人だったって!恐ろしいですねー」


 すごい兄妹喧嘩である。ご当主様のやり方には是非とも不服申し立てしたいけど。お嬢様もお嬢様で、よくここまで意地を貫き通したと言うべきだろうか。


「それで、いよいよお嬢様が反撃したってところなのね…」

「そうですー。実際、戦力というか魔法の才能はレイお嬢様の方が圧倒的に上ですからね。それにわが領屈指の騎士、エドガーさんも引き連れてましたからね。騎士団を呼んでも負け確定ですよー」


 そう。エドガーさんも強い。

 彼は火の魔法が得意だ。火の魔法は広範囲・高火力で、とにかく強い。さらに剣も扱えるとなれば、勝てるものはいないだろう。

 そして彼はお嬢様の絶対的な味方なのである。メロー家は全体的にお支えするべきだってところなんだけど、二人の付き合いは長い。立場は縛れても、心は縛れない。


「ま、ご当主様も引き下がれないでしょうねー。何せ先代からお嬢様のことを任されてるんですから。何かしらの条件を出すと思いますけど」

「そうね…」


 そのあと、エドガーさんにも聞いてみたけど、交渉の場に送り届けたところでこちらに戻ってきたから、何も知らないと言っていた。それまではかなりお怒りだったと聞いた。


 ◇


「そろそろいいかな」

「本当ですか!」

「でも無理はしないでね。魔法も少しずつだよ」

「はーい。わかってますよ。コナもいますし」


 倒れてから三日目にしてようやくアルトさんから許可が出た。今はもう熱もないし大丈夫になった。やらかしたら結構怖そうな人だからなおさら無理はしないで行きます。

 一旦自室に戻って身支度を整える。半袖の紺のワンピースと、いつものエプロン。それから髪を整える。一つに結んでお団子にして、最後にもう一度鏡を見る。


「…よし」


 私はこの魔法警備隊のメイド。今日も頑張って働きますか。




「コナ!私も手伝うわ」

「ユリアさんもういいんですかー?」

「ちゃんと許可はもらったのー」


 わちゃわちゃしながら仕事をするのは久しぶりだ。二人で洗濯物を踏む。


「いいわね、こういうの。久しぶりだ」


 魔法というのは万能ではない。実際、魔力が尽きれば普通にやるしかない。大体の人は魔法はゴリゴリ使えないし、お屋敷で習ったのも普通のやり方だ。

 こうして二人なら魔法無しでいいかもしれない。一人でやるには無理がある。

 本当に、ご当主様はひどい。レイ様が結婚しないから圧力をかけてるなんて。そろそろ文句でも言いつけたいわ。

 それから洗濯物を干していると、馬の足音が聞こえた。


「ねぇコナ、馬が来たわ」

「そうですねー、こっちでは珍しいんですか?」

「そうね。あんまりないわ」


 こうなると覗きに行っちゃうのがメイドの性。

 門の方を覗くと、あの見覚えのある水色の髪が見えた。


「レイ様…」


 私が倒れた時からお屋敷に行き、今まで帰ってきていなかった。


「なんでしょうねー…お屋敷の騎士と、あれは…ステファノさん?!」


 確かに、あの銀髪と燕尾服がトレードマークの執事・ステファノさんだ。お屋敷のことをご当主様以上に知っている彼が来るなんて、かなりのことじゃないのだろうか。

 そして二人は建物の方に来た。


「何か、交渉の結果ですかねー?」

「…そうね」


 ここまでやったご当主様ならきっと条件をつけてくるだろう。その通告とかなんだろう。

 ちょっと不安だけど、私たちも仕事に戻ることにした。何かあれば呼び出されるはずだ。下っ端のメイドだし。



―――――――――――――――

元気一杯…じゃないけど、パワフルなのがユリアの持ち味です。元気になってよかったね。


PVが500超えました…ありがとうございます…!

評価、♡などよろしくお願いします…!


次話更新は9/3 12時頃です。

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