第3話 一時凌ぎ


「今日から掃除や洗濯をやってくれる、メイドのユリアよ」


 この魔法警備隊の隊長もやっているレイお嬢様から紹介をされる。


「ユリアと申します。以前はお屋敷で働いていまして、家事は一通りできます。どうぞよろしくお願いいたします」


 パラパラと拍手が起こる。


「私とエドのことは顔見知りだから、他の人の自己紹介だけでいいわね」


 この何とかギリギリいられるダイニングであろう場所にいるのは私含め六人。お嬢様と護衛騎士のエドガー様はわかるから、残りは三人。

 まず優雅な感じで座っている、緑がかった銀髪とペリドットのような瞳を持つ男性から。


「アルトです。ここでは森の植生の研究と、ここの魔法医を兼ねてます。よろしくね」


 にこりと目を細めて一礼。見ていて非常に好感の持てる、お手本のような佇まいだ。その上魔法医になれるくらい賢いのなら、きっと身分は高い方なのだろうとわかる。

 …やらかさないようにしよう。


「ユぺ・サフィですネ。武器扱うネ。よろしくネ!」


 まずは見た目が私と同様、中々見ない。浅黒い肌に、白皙の髪。それに満月のような金の瞳。高い位置のポニーテールが揺れる、不思議な雰囲気の女性だ。

 言葉は東の方の訛りだろうか。確か東にはそういう特徴の民族の方がいると聞いたことがあるから、そういうことなのかな。


「俺はジャン。外にいることが多いよ。よろしくね」


 さらーっと軽薄な感じ。最後にはひらひらと手を振った。チャラいって言うのかな…赤いバラでも持っていたら完璧だ。それにどことなく粘着質のある笑みを浮かべている。

 トルマリンみたいな深い青緑の瞳と、それを極限まで薄めたウェーブのかかった髪。見た目はかなり華やかで整っているんだけど、個人的に嫌な感じの笑みが打ち消している。


「メイドって言うならメシくらい作ってねーの?」


 …彼はどうやら、無礼な人間らしい。


「あの台所で料理ができるという方がいたらぜひ連れてきてほしいですね」


 無理なリクエストには皮肉を込めたスマイルを。内面じゃ一ミリも微笑んでないけど。


「ジャン!無茶言わないの。あなたはこのままぐちゃぐちゃの台所のままでいいの?」

「……」


 キッパリ言ってくださるお嬢様。そういうところが私は好きです。


「あとそうだ、私のことはお嬢様じゃなくて、『レイ様』と呼びなさい。私がここにいる限りはお嬢様じゃない。ただの一隊員よ」

「…かしこまりました、レイ様」

「いい子ね。何か軽く食べられるものでもあればよかったんだけどね…」

「今まではどうされていたのですか?」


 台所が使えなくなっている時点でもうお察しだけど、一応今まで生き延びられているから聞いておく。


「外で買ってきたものでしのぐネ。果物とか、屋台のものでどうにかしてたネ。…でも、よくないネ。何トカ料理したけど、この有様ネ!」


 いかにも不満げに答えたのはユペさん。危機感を感じていてよかった。もうそのレベルだ。


「なるほど…」


 食糧庫も空っぽだったし、外で買ってきた出来合いのものやそのまま食べられる果物でどうにかしてきたらしい。

 人間の生命力ってすごいですね。…もちろん皮肉ですよ?


「お昼!どうするネ!またナニカ買うノ?」

「…いえ、私が何か買ってきて、作りましょう」


 皆さんの、声にならない期待が聞こえた。




 この辺りの土地勘はないので、ユペさんについてきてもらって市場へ。

 適当にパンと野菜、それからハムとチーズなどを買う。お金は一旦私が建て替えることにする。この辺りの話も聞いておかなくちゃね。


「パン!野菜!チーズ!肉!ちゃんとナニカ作るネ!」

「ええ。あとはそこのリンゴでも買いましょうか。赤くて美味しそうですからね」


 そちらに歩き出そうとしたところでユペさんがビッと反対側の店を指差した。


「あっちの店の方が安くて赤いネ!」

「そうですね。そちらで買いましょうか」

「そうするネ!」

 

 そうして買ってきたパンに切れ目を入れる。それに野菜、ハム、チーズを挟み込んだ、カスクートを作った。一時凌ぎの簡単なものだけど、ギリギリ残っていた(料理ができないから残されていたともいえる)酢などを使ってソースも作った。リンゴはデザートにどうぞ。


「ん!美味しい!手料理の味は違うなぁ…」

「美味しいネ!マトモな料理の味は違うネ!」

「さすがユリアね。美味しいわ」


 それはよかったと微笑む私。エドガー様はもう完食している。やっぱり騎士様には物足りないか。申し訳ないけどそれは後で調達していただきまして。


「…で、この片付けはどうするの」


 ジャン…さんは指についたソースを舐めてから言った。お行儀が悪い。


「桶かたらいを貸していだだけますか?それに水を入れて浸けておきましょう。まずは普通に使える食器を確保するのが優先です」


 できるだけキビキビと、毅然とした態度で伝える。

 私はここのメイド。生活を影から支えるのが仕事。

 だけど今、普通の生活をするにはあまりにも程遠い。



―――――――――――――――

次くらいでユリアが呼ばれた理由がわかります。


読んでいただきありがとうございます。

良ければ応援よろしくお願いいたします。


次話は8/3 12:30に出します。

いつ更新すればいいかあんまりよくわかってないので実験を含め…

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