第19話 ユぺさんの部屋


 翌日のお昼過ぎのことである。


「ユぺさん、本当にいいんですよね?」

「余計なとこ触らない、いいヨ」


 心の中で失礼しますと言いながらユぺさんの部屋に入る。ちなみに私の部屋の隣ね。


「!?」


 入った瞬間からなんか色々と見えた。

 壁に立てかけられた槍、鞘に納められたいくつもの剣が適当に入った箱、壁に飾られた弓、名前すら知らない初めて見る武器の数々。


「この辺り、触らないネ」

「もちろんです…」


 ここまで言うからには触らない。ってか武器が大量に平然と置いてあるってどういうことよ。


「ユぺさんちょっとお聞きしたいんですけどこれは…」

「作ったネ。サンプルネ」


 それからもう少し話を聞くと、ユぺさんは騎士団で使う武器のオリジナルを手がけているんだそう。

 そもそも武器は職人さんが作るんだけど、騎士団で使うならある程度デザインを統一した方がいい。見栄えもそうだし同じ規格なら作りやすいというのもある。武器庫にしまいやすいとか、管理もしやすいね。

 でも一番の理由は、戦場で倒れた仲間から武器を借りてでも戦えるように。バラバラな武器だと、すぐ手に取って戦えないからね。過酷な戦場で少しでも生存率を上げるための工夫なのである。

 同じものを作るといっても、もちろん細かい調整はできるようにしてあるらしいよ。持ち手の太さとか、重量感は特に。


「ユぺさんすごいんですね…私、包丁とか作ってもらっちゃったけど…」


 包丁に使っていいレベルじゃない代物を何本も作っていただいたからな…。枝まで切れるパン切り包丁とか、骨まで断てる肉切り包丁とか。あとカボチャもちゃんと切れるらしい野菜用の包丁とか。明らかにオーバースペックだね。

 しかも持ち手の長さとか太さとか、私の手の感じに合わせてくれている。ここまで来ると技術をめちゃくちゃ無駄遣いしている。


「ユリア、ゴハン、美味しいネ。お代、それでいいヨ」

「それだけでいいんですか?」


 ニコニコして頷いてくれるユぺさん。


「ユぺサン、ユリアのゴハン、好きネ」

「えへへ。ユぺさんの包丁、使いやすくて助かってるんですよ。ありがとうございます」


 道具の良さって大事だからね。仕事人は道具にこだわるんだと、料理長のベルナトさんが教えてくれた。ってか今度作ってもらおうか…お屋敷の方にも何本か…


「ユリア、どうするネ?」


 ちょっと考え込んでいたところに声をかけられて気づく。おっと、危ない危ない。


「はい。もちろんやりますよ」


 さあ、ここからは私が仕事を見せるターン。

 ちゃちゃっと掛け布団を畳んで、その上に枕本体を回収。あとは昨日もやった通り、シーツだけ替えて端っこは下に折りこむ。そして枕と掛け布団を元に戻して、完成。


「これだけです」


 振り返るとユぺさんはすごい驚きの表情でこちらを見ていた。


「ユリア…早いネ…」


 そしてユぺさんにはまた見たいと言われた。うん、信頼を勝ち得たってことでいいかな?


―――――――――――――――

ちょっと短めです。


読んでいただきありがとうございます。

よろしければ応援よろしくお願いいたします。


次話更新は8/22 12時頃です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る