第18話 ユリアのベッドメイキング講座


 午前のうちに掃除と洗濯を終えて、お昼を食べて洗い物をしたら、リネン室から新しいタオルとシーツを持ってくる。

 洗面所にタオルを置いて、それから個人の居室に行く。

 まあ部屋の並び順なら私が最初なんだけど。いつものようにドアを開ける。


「へぇ、やっぱり綺麗にしてるんだね。ユリアらしい」

「なんでついてきてるんですかアルトさん…」

「僕のことは気にせずに。外から見てるし」


 なんなんだこの人は。安易に淑女レディの部屋に入らないあたりは非常に紳士的だけど。

 ベッドメイキングは、メイドの技が光るものである。

 お屋敷ではベッドの数も多いし、手早くやらなければいけないのでね。私もだいぶ早くできるようになった。


 さあやっていこう。

 まずは状態をチェック。いつもの癖で掛け布団は足元の方に綺麗に畳まれている。お屋敷でのルールでした。

 枕カバーだけ外す。外したものは真ん中に置き、枕本体は掛け布団の上に置いておく。

 そして奥からベッドシーツを外す。マットレスの下に挟んでいるので角から外していく。内側に包むようにまとめる。それでこの時に掛け布団と枕はベッドの上に残しておく。

 外したベッドシーツなどは籠に入れる。明日洗濯する。


「おぉ…」


 ここまでで前半戦でした。

 残してあった掛け布団と枕は一旦籠の上に置く。何も無くなったベッドに新しいシーツを縦に半分広げる。そうしたら角を三角に折って、マットレスの下に入れる!反対側もやったら、残り二箇所もさらにシーツを広げてシワにならないように張ってから同様にして端をしまう。

 そして枕カバーもつけて、掛け布団も戻したら、完成!


「早業だ…」


 見ていたアルトさんが言うように、これを三分もかからずやってます。


「私は最初から布団も畳んであるからいいんですけど、早い人はもっと早いですよ」

「これより早いのか…参考にさせてもらうよ…」

「何の参考ですか?」

「医務室のベッドメイキングだよ。僕がやってたけどいつも時間がかかってさ」


 なるほど。そういうことだったのか。確かに医務室の管理者はアルトさんだからね。こんな上流階級の素質を感じさせる人がやってたと知ると、思うところはあるけど。


「そういうことならお教えしましょうか?」

「いいの?忙しくない?」

「大丈夫ですよ」


 私はにっこりと笑みを浮かべた。


 ◇


 場所を移して医務室へ。

 消毒用のアルコールが香る、清潔感のある部屋だ。衝立を挟んでベッドが二台ある。ここの掃除はアルトさんがやっていたらしい。まあ合格かな。

 リネン室で発掘したシーツが余っているので、今回はそれを使う。


「ポイントだけですよ。慣れた人だと早いってだけで。でもポイントを知ってるか知らないかで全然違うって話なんです」


 まずはお手本。


「最初にですね、余計なものを全部別の場所に置きます。ここは枕しかないからいいですが、作業の邪魔なのでどかしてください」


 いつでも急病人や怪我人が運び込まれてもいいように、医務室のベッドは掛け布団が別に置かれているんだそうだ。

 そして先にシーツを引っぺがす。素人がやった感じだったね。


「では、ここからですね。まず縦に被せます。全部は開きません」

「そこは僕も気になってたんだけど」

「それはですね、最初に二か所だけ固定すれば、あとは向こうで調節すれば良くなるからですね。そもそも一人でバランスよく綺麗に広げるのは大変じゃないですか。その時間が大変だしもう無駄なので」


 縦に被せたところでここが大事。


「ここです。角を固定して、余った布が三角になるようにします。それを下に折り込むんです。シュッと」


 実際に一か所やって見せて、残りは実践してもらう。


「…この形だったよね?ここを押さえながら…しまう。合ってる?」

「はい。大丈夫ですよ。反対側もやってみましょうか」


 ポイントを押さえればゆっくりだけど綺麗にできる。何も知らずにやるのと大違いだ。もう一台のベッドもやってもらうと、適当にやるより綺麗だし早いと喜んでいた。


「いやー、やっぱりプロに聞くべきだったね」

「そんなそんな。最初はみんな初心者ですから」


 ◇


 それから洗濯物を取り込みながら思う。

 最初はさっきのアルトさんみたいにあまりにも早すぎて何が何だかだったけど、お屋敷の方は質問すればちゃんと教えてくれたから今がある。

 その流れで私も何人か教えたなぁ…。元気にしてるかな。

 私たちの仕事には何にせよコツや小技があって、それをいかに早く丁寧にできるかというだけだった。あとは成功率もそうだね。たかが下働きであっても、仕事人としてのプライドがあった。


 メイド長がよく言っていた。「みんなで仕事をして、その結果が持ちつ持たれつで世界は回っているのよ」と。

 私たちが使っている道具は誰かが作ったものだし、私たちが仕えているサントロワの方は民の管理や騎士に巡回をさせて治安を守らせたり、畑に水路を作るようにしたり、この地の統率の役割をこなしている。それはまた多くの人に恩恵が及ぶ。


 ここの人はちゃんと「ありがとう」を言ってくれることが多いので、私は嬉しいし、自分の仕事に自信を持てるのだ。



―――――――――――――――

ちゃんとプライド持って仕事してます。えらいね。


読んでいただきありがとうございます。

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次話更新は8/21 12時頃です。

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