第5話 ディナータイム


 エドガーさんと話して時間が経ったところで、浸けておいた食器を洗う。種類はバラバラだけど何とか人数分用意できた。調理器具も鍋とおたまは発掘できた。

 キッチンはとても使えそうにないので、ダイニングテーブルと外で料理する。


 まずは鍋とおたまだけ洗った。これは石と木を組み合わせて作った焚火コンロに配置。立派な建物があるのに、何で冒険者みたいなことをしてるんだろうね私は。

 まな板はあったけど包丁が見つからないので手持ちの小さなナイフで切っていく。あるだけマシだと考えるほかない。


 先に野菜。キャベツは葉をちぎっておく。玉ねぎも買ってきたので頑張って切って鍋に入れる。

 でもトマトは諦めてヘタを取って皮を剥いたものをおたまで潰した。トマトをナイフで切るのは無理です。あれは無理。


 水を入れて火にかけている間に食器を洗う。水に浸けておいたから多少は汚れが落ちる。とりあえずこれだけあればどうにかできるんだと自分に言い聞かせた。

 それが終わったところで、煮えた鍋に薄く切ったハムも六等分にしたものをざーっと入れる。ベーコンも買ってきてたらよかった。あるだけいい、あるだけいい。そこまでやったら一旦火から外しておく。


 このダイニングも中々だ。人の出入りがあるから埃はあまりないように見える。でも多分周りを鑑みて掃除とかやってなさそうなんだよねー…。

 ダイニングテーブルにはクロスもかかっていないので、しっかりと拭いておく。他は後。


「…よし」


 何とか食事の体裁はいい感じにできたんじゃないか。


「いい香りがするね」

「お疲れ様です」


 カウンター越しに見えたのは優雅な佇まいのアルトさん。テーブルの方を見て驚いている。前は酷かったからね。そしてそのままこちらを覗いている。


「こちらでは食事はどうなさっていたのですか?」

「最近は誰かが交代で買ってきて、それをここで食べるって感じだね。足りなければ各自で調達するようになっていたから、そういうところも含めて不便だよ」

「うわぁ…」


 現状を嘆くように彼は続ける。


「誰かが交代で料理をやろうとかなったけど、レイ様はやったことがないって言うし、エドガーさんは野菜と肉を切らずに入れただけ、みたいなスープかお菓子しか作れないし…」

「はい?適当なスープかお菓子??」

「ユぺさんは材料がないからって色々代用しまくって変なものができたし、ジャンは台所を爆発させかけるし…」

「台所爆発??」


 かまどの方は(怖いから)まだ見ていないけど、あっちのやたらと壁が黒い方がそうなのかな?


「僕は何をしても薬しか作れないから台所出禁にされたし…」

「…逆に才能では?」


 そんな人たちが一か月よく生きてたね。死人が出なかったのが不思議だよ。


「――とにかく!君が来てくれたから希望が見えたんだ!ここまでにした僕らが言えたことじゃないけど、どうか僕らにまともな生活を取り戻させてくれないか!」


 とても必死な訴えだった。目が本気すぎる。


「ええ。もちろんでございます。それが私の仕事でございますから」

「頼んだよ!君が諦めたら僕はお茶の出涸らしみたいに干からびて死ぬしかない!」


 お茶の出涸らしって…この状況ならありえなくないかと納得してしまうのが怖い。

 そのころには鍋の方もいい感じになっていた。



「さあ、どうぞ召し上がれ」


 さて、本日のメニューは限界トマトスープ。具材は玉ねぎとキャベツだけ。付け合わせはパンとチーズ。この条件でここまでやった私、頑張ったよね!


「うおぉ…”メシ”だ…」

「あったかいネ!」


 簡単なものだし、きっと量も足りないだろうけど、喜んで食べてもらっている。それがとても嬉しい。


「そうよ、こういうのが食べたかったの!お店の料理も美味しいけど、誰かが作ってくれる味が一番ね」

「ですよねレイ様。僕も同感です」


 頷きあうレイ様とアルトさん。絵になるね。そして最後にジャン…さんは。


「うっま…これ、ユリアちゃんが作ったの?」

「”ちゃん”…?」


 私はきっとすごい顔をしている。横から「おお…生ゴミを見る目だ」と聞こえたくらいだから。


「――ユリア、後ろに〈氷の矢アイス・アロー〉が出てきてるわよ」

「! 失礼いたしましたレイ様」


 おっと、いけないいけない。、やっちゃった。

 周りもいきなり攻撃魔法の気配を感じたからか、厳しい顔をしている。エドガーさんは何も気にせずパンをもぐもぐしているけど。この人は例外。


「ユリアは中級魔法までは使えるの。すごいでしょう?」


 レイ様は美しく微笑んだ。

 一瞬だけ、世界が凍り付いた気がした。首筋に刃を当てられたような、凄まじい殺気だ。


「…だからあんまりいじめるのは、よした方がいいわ」

「…!!!」


 まともに殺気を受けたその男の手は、カランとスプーンを落とした。

 私はサッとスプーンを拾う。


「まだ替えのカトラリーはございませんので、ご自分で洗ってきてくださいませ」


 これは……掃除洗濯料理に加えて、少々マナーの指導まで必要そうだね。



―――――――――――――――

この先も基本日常的な話だと思います。たまに魔法使いますけど。


読んでいただきありがとうございます。♡とかめっちゃ喜んでます。

良ければ応援よろしくお願いいたします。


次話更新は8/5 7:45です。色んな時間に設定してみてます。

ストックに余裕があるのでガシガシ投稿していきます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る