第37話 採用選考
気を取り直しまして。
採用選考をやっていく。内容は一対一の面接。面接官は私とステファノさん。案内役でセッラ。ちなみにセッラはコナと同い年の後輩。元気にしてたみたいで何より。
それじゃあ一人目。一人しかいないので庭仕事枠を優先します。
入ってきたのはステファノさんと同年代のおじさま。入ってくるなり、品のいい笑みを浮かべた。
「庭師のアンドレ・デュノアです」
「魔法警備隊のユリアです。よろしくお願いします。では早速ですが応募理由を教えてください」
「わしはこの屋敷の庭の手入れをしていました。それももう弟子に譲って、今は庭の隅っこにある小さな庭をいじっています。でも弟子からはまだ現役だからと言われてまして、どうせやるなら弟子の成長を妨げず、もっと広い庭の手入れをしたいと思った次第で、応募しました」
…確かに、書類には年齢が四十五歳とあるので、現役引退にはちょっと早いかなと思う。
うちの庭は結構広いからね。そこは彼にとっていいのかもしれない。
「ありがとうございます。それではいくつかお伺いしていきますね」
彼に聞いたのは、お屋敷の庭師という仕事とアルトさんの手伝いという仕事は違うものなので、そこはいいのか。植物の育て方に詳しいか。年齢もあるので、庭の広さに対して作業する人が少ないけどいいのか…などなど。
色々聞いたところ、アルトさんが求める人に合っていそうだなと思ったので今度はうちでアルトさんとお話してもらうことにした。
あとは面接官がこんな小娘でも丁寧だった。そこは非常にいい。
中途半端に若いと舐められるかもしれないし、いっそこのくらい老成した方だったらうちに合うのかもね。
二人目以降は私の管轄。使用人の選考である。
さっきの書類で落とした二人は面接もやりません。論外です。その辺はステファノさんがうまく言ってくれるそうです。助かるね。
「それではよろしくお願いします。まずは名前をお伺いしますね――」
応募者は六人で、庭仕事枠のアンドレさんと、書類で落とした二人を抜いて三人。
それぞれと話をしていく。ちゃんとうちに合う人間かどうか。あと結構忙しいし、対応力も大事かな。
全員の面接が終わったところで、私とステファノさん、案内役のセッラと乱入してきたフィアさんを交えて話し合う。
「この人はお屋敷の方が良さそうじゃないですか?人望がある感じですし…」
「あーそうね。人をまとめる能力が高いのは確かよ。ユリアの方は人数があまりいないんでしょう?」
「そうなんですよね。こちらの方には残っていただきましょうか。実力は私も知ってるんですけどね」
まあ、残った方は書類でも面接でもいい感じだと思ったので、どこに向いているかという点で考えていく。
「料理は私がやりますし、洗濯なら魔法でバーッとやってるのでいいんですよね…ん?」
「魔法で洗濯…?」
フィアさん怖いです。従弟のエドガーさんとはまた違った怖さだけど、怖いものは怖いし強いのは知ってるんですよね。
「えーっとですね、魔法がちょっと使えるのはご存じですよね?普通に洗濯するのも面倒なので魔法でバーッとやるようにして、それで大分効率化できてるんですよね。何せ人がいないので」
誰のせいとかは言わないけど。
「…無理なくできるの?」
「はい。この前熱出して倒れたのは魔法を使うことに慣れてなかったのと、過労ということでして…」
あれ?なんか空気が冷えていくような…
「貴女ね、もっと自分を大切になさい。使用人の代わりはいるけど、貴女の代わりはどこにもいないのよ。貴女にできることがたくさんあっても、貴女は貴女一人だけなの」
久々に、そんな諭すようなことを言われた。
「でも、人が足りなければ貴女にしわ寄せがくるんでしょう?だから今日ここでいい人を引き抜いていきなさい。それでもダメなら、もう少しコナを貸すわ」
そうしてまた真剣な眼差しを書類と私のメモに向けた。
フィアさんは、厳しいけどちゃんと優しい人だったなぁ…。隙のないお仕着せの着こなしや的を射た言葉は怖いように思えるけど、全部全部ちゃんとやってる結果なんだよね。
「ねぇセッラ、あなたから見たこの人たちはどう?フィアさんとステファノさんからの評価はこうだけど、もっと近い視点からの意見も聞きたいの」
「私からですか…――」
――そうしておよそ二時間近くじっくり話し合った結果。
「…この人にしましょう」
「そうだね。セッラ、呼んできなさい」
「かしこまりました」
セッラはドアの向こうに消えた。
そして誰を採用するか決めたところでフィアさんは次の仕事へ。忙しい方だからね。
しばらく待っていると二人分の足音が聞こえてきて、ドアが開いた。
「失礼します」
入ってきたのは、くりんとした天然パーマの少年。それでも私より背は高いけどね。
「座って。選考結果を伝えるわ」
ゴクリと息を呑む音も聞こえてしまいそうなほど静まり返ったところで、私は口を開く。
「合格よ。きみ、うちに来てみない?」
すると彼の顔はぱあっと輝く。
「はい!よろしくお願いします!」
私は頷く。素直でよろしい。
彼の名はフレデリック・ヴァレリー。通称リック。十五歳。一年半くらい前からお屋敷で働き始めた商会の息子だ。コナとセッラのちょっと後輩。
決め手は素直なところと、まだまだ育ち盛りで力があるところかな。コナに心当たりを聞いた時に名前も出ていたしね。
裏表のない性格はうちにふさわしいと思う。お屋敷で真面目にしてるのは、なんかいいところを潰しているというか。あとは基本的なことはできるようになっているけど、お屋敷に染まりきっていないから、引き抜くなら今だと思った。
「本当にいいのね?うちには出世街道なんてないけど」
「はい。毎日充実してれば僕はそれでいいです」
契約内容の最終確認をして、ちゃんと書類も用意した。
これから一週間の試用期間を経て、彼は正式に魔法警備隊の使用人になる。
「じゃあ四日後、うちに来てもらうわ。良ければそのまま採用よ」
「はい。よろしくお願いします」
―――――――――――――――
▽ユリア は なかまを みつけた!
どうでもいいですが毎回2000字を目安に書いてます。自分の中で読んでていい感じだなーって量がそのくらいだったので。
読んでいただきありがとうございます。
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次話更新は9/9 12時頃です。
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