第6アルル視点

 ……この人は誰だろ?


 どうして、わたしを助けてくれたんだろ?


 何で、見ず知らずのわたしにご飯をくれるの?


 その眼差しを受けると、感じたことのない気持ちが出てくる気がした。


「あ、あの……」


「 どうした? 量が足りないか?」


「い、いえ! お腹いっぱいです!」


「そうか、なら良い」


 わたしがそういうと、その人は優しげに微笑んだ。

 こんな視線を向けられることは初めてで、どうして良いのかわからない。

 物心ついた時には、お母さんと二人きりだった。

 そのお母さんも、わたしに対しては冷たかった。

 いつも、『アンタなんか産まなければと』。

 よくわかんないけど、お父さんに捨てられたのはわたしの髪色が原因らしい。

 だから、わたしはこの髪の色が嫌いだった。


「さて、腹ごなしをするか。サクヤ、アルルを少し見ててくれ」


「アォン(良いわよ)」


「ど、どこにいくんですか?」


「安心していい、目に入る位置にはいるから」


「は、はい……」


 わたしの頭をひと撫でして、その人は丘を下っていく。

 そして木刀を持って、素振りを始めました。


「わぁ……カッコいい」


「アォン?(そうかしら?)」


「う、うん、何というか……怖くない?」


 わたしがいた村でも、ああいうことをやってる人はいた。

 でも、その人達とあの人では何かが違う。

 わたしの髪だって綺麗だって言ってくれたし、なんだか不思議な人。


「アォン(多分、パパのは自分のためにやってるから)」


「自分のため?」


「アォン……(説明が難しいけど、誰かに見せるためとか倒すためじゃないの。自分を高めるため、誰かを守るために鍛えてる人だから)」


「高める、誰かを守るため……」


「アォン(あとは、強さを見せびらかしたりしないってことね)」


 そっか、だから怖くないんだ。

 いつも見てた人は暴力的で、それを周りに強いんだぞと見せびらかしていた。

 あの人には、そういう感じがしないからカッコいいと感じたのかな。


「……あ、あのね、あの人はどんな人かな?」


「アォン……(うーん……変な人よ)」


「へ、変な人?」


「アォン(そうよ。アタシは誉れある雪豹だっていうのに、村人達みたいに平服もしないし……叱ってくるし、普通に接してくるし)」


 よくわかんないけど、わたしには一部の魔獣の言葉や気持ちがわかる。

 村にいた時、魔獣を飼育していた人がいて、その魔獣と触れ合って知った能力だ。

 そしてこの子からは、あの人が大好きという気持ちが伝わってきた。


「大好きなんだ?」


「アォン!?(な、何を言ってるの!? べ、別に……)」


「いいなぁ……わたし、誰からも好かれてない」


 村人達もまるでいないみたいに扱うし、お母さんは話しかけても無視される。

 それこそ魔獣くらいしか、話せる相手かいなかった。

 そして、それこそが……わたしが売られた大きな理由だった。

 魔獣の言葉がわかるみたいで気持ち悪いって。

 あとは珍しい髪色だったから、奴隷商人が興味を持ったみたい。


「アォン(きっと大丈夫よ)」


「ふぇ?」


「アォン(少なくとも、パパは髪色や種族で人を差別しないから。何よりあの人、お人よしのお節介だし)」


「そ、そうなんだ?」


「アォン(そうよ。だから、普通にしてたらいいと思うわ)」


 すると、素振りを終えたあの人が戻ってくる。

 わたしは思わず、じっと見てしまう。

少し跳ねた量の多い黒髪に、身長も高くて細身の爽やかな人。

すると、その人はニカッと笑う。


「おっ、どうした?」


「う、ううん!」


「そうか? おい、何か余計なこと言ってないだろうな?」


「アォン?(別に?)」


 そして、二人がにらみ合いを始めてしまいました。

 ど、どうしよう!? わたしの所為で……止めないと!


「あ、あの! お人好しのお節介だけど、サクヤちゃんが大好きだって!」


「アォン!?(ちょっ!?)」


「ほほう……そうか、大好きなのかー、そいつはまいったなー」


 あれ? 思ったのと違う。

 男の人はニマニマしてるし、サクヤちゃんは動揺してる。


「グルァ!(こんの!)」


「わっ!? やめろって!」


 そして、二人で取っ組み合いを始める。


 それはなんだかとても楽しそうで、気がつけばわたしは笑っていたのでした。







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