第41話 決着と共闘

……間に合ったか。


見たところ死体はないし、道中にもなかった。


途中であった冒険者達のいう通り、この最前線にいる方々が足止めをしてくれたのだろう。


「お、お主……」


「いきなり参戦して申し訳ない。俺の名前はハルトといい、鉄級冒険者です。ですが、奴を倒すくらいの力はありますのでご安心ください」


「鉄級? そんなクラスではとても……いや、そうではない。お主、ハルトか……?」


ブルーオーガから視線を外さずに、俺は声の主を横目で見る。

すると、そこには懐かしく感じる証があった。

ドワーフの姿とは基本的に同じだが、目の下の傷については覚えがある。

それは、昔の仲間であるドワーフのドランだった。

全身から血を流し、片腕は変な方向に曲がってしまっている。


「……ドランか?」


「い、生きておったのか! なら、何故ワシらに……言えるわけがないか。ワシらは、お主を捨ててしまった」


……その物言いからは、後悔の念を感じる。

やはり、単純に俺を追放したわけではないのか?

いや、今は考えなくて良い。

一つだけ言えるのは、ドランが生きていてくれて俺は嬉しいということ……それだけで十分だ。


「……その話は後にしてくれ。今は、こいつを倒す」


「そ、そうじゃな」


「だが、一言だけ言わせてくれ——友よ、会えて嬉しいぞ」


「っ——!? ワ、ワシをまだ友と呼んでくれるのか?」


その問いには答えずに、起き上がったブルーオーガと向き合う。

身長は軽く二メートル以上、頭からは一本のツノが生え、体格も筋肉隆々で逞しい。

仙気を込めた蹴りだったのだが、特に堪えた様子はない。

流石は、上位種のオーガといったところか。


「ガァァァァァァァ!」


「怒り狂っているのか? だが、それはこちらも同じこと」


そう、俺は怒っていた。

昔の仲間に会ったら言いたいことは沢山あったし、どうして追放されたのかとか。

しかしドランの顔を見た瞬間、そんなことは吹き飛んだ。

今はただ、俺の友を傷つけたこいつを許せない。


「もう貴様の好きにはさせん」


「ジャマヲスルナァァァ!」


「ふんっ!」


振り下ろされる拳を受け止めずに、拳の側面から掌で打ちはらう。

拳は力の方向を見失い、地面に穴を開けた。


「ガァ?」


「どうした?」


「ミョウナワザヲ!」


両手から繰り出される拳を、同じように受け流す。

ブルーオーガの拳を食らえば、人などひとたまりも無い。

仙気を纏えば話は別だが、俺は違う技のために仙気を貯めていた。


「ふむ……」


「ハハハッ! ヨケテバカリデハナイカ! キサマノコウゲキナドキキハシナイ! ヒトゴドキガァァァァァァァ!」


確かに、先ほどの蹴りを食らって何とも無いので生半可な一撃では無理だろう。

刀を振るうにしても、こいつを斬るほどの力を貯めるのには時間がかかる。

だが、今……その準備が整った。


「そうか、ならば人の技を受けてみるが良い」


「ヌッ!?」


拳を打ち払った直後、すり足を使って懐に入る。

仙気を貯めて、相手の腹に手を添え——。


「浸透術——仙気発勁」


「ガァ? ソンナヨワイデハ……ガハッ! ナニヲシタ!?」


ブルーオーガが膝をつき、こちらを鬼の形相で睨みつける。

いくら外側の防御力は高くとも、ただの魔物では内側までは鍛えられまい。

掌から、仙気を直接内部へと浸透させた。

内臓器官や中の骨が砕けて、尋常じゃない痛みが襲っているはず。


「説明する義理はない——シッ!」


「カハッ……」


身動きが取れないブルーオーガの首をはねる。

少し遅れて、身体がゆっくりと倒れた。

どんな生き物であろうと、首を斬られては生きてはいまい。


「ふぅ……さて、片付いたか」


「まさか、ブルーオーガを倒せるとは……お主、一体どんな修行を積んだのじゃ? いや、そもそも何処にいたのだ?」


「ドランよ、積もる話は後にしよう。まずは、残りの敵を片付ける」


まだ周りには多数の魔物達がいて、カイト達を含む冒険者達が奮闘していた。

中にはそれなりの強さの魔物もいて、彼らには手に余るだろう。


「……それもそうじゃな! では、ワシも参加するとしよう!」


「おいおい、怪我人が無理するなって」


「ふんっ! 痛みなどどっかいったわい!」


そう言い、金剛棒を持って駆け出していく。

その姿は、あの頃のままだった。

そして、タンク役で前に出るドランを俺が追いかけるのも。


「待てって! その身体じゃタンクは無茶だ!」


「うるさいわい! お主は良いから、ワシが足止めしてる間に敵を斬れい!」


「だぁァァァァ! 相変わらず頑固なやつ! 死んでも知らないからな!」


そうしてドランが敵の動きを止め、俺が刀により一撃で仕留める。


それは十五年前と同じようで、俺は気持ちまでもが当時に帰っていくのを感じるのだった。

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