第40話 ギルマスの正体

そのまま走り続け、四時間ほどで辺境都市付近の森へと到着する。


本当なら一日半かかるので、かなりに速いだろう。


「さて……サクヤ、よく付いてきた」


「ハフハフ……アォン!」


氷を応用したしたとはいえ、俺の全力について来られるようになったのか。

やはり、山を降りたことは正解だった。

試行錯誤をするからか、成長速度が速い。


「だが、その疲れでは戦えまい。その代わり、お前にはアルルを預ける。ここで俺たちの帰りを待ちつつ、アルルを守ってくれ」


「ククーン……アォン!」


どうやら、今の自分の状態を冷静に判断できたらしい。

逃げるだけなら、今のサクヤでも容易い。

そもそも、敵に見つからない優秀なハンターでもある。

すると、アルルが俺の服を掴む。


「お、お父さん……帰ってくる?」


「ああ、もちろんさ。さっさと倒して、アルルのところに帰ってくる」


「や、約束!」


「ああ、約束だ」


最後に頭を撫でたら、カイトとカエデと顔を見合わせる。

そして頷き、三人で森の中へと入っていくのだった。



くそっ! ワシとしたことが!


まさか、ブルーオーガ如きに手こずるとは……!


ワシが全力さえ出せれば、こんな奴は敵ではないというのに!


「ギルマス! 下がってください! もう二日間も戦い続けているのですよ!」


「ええい! ワシが下がったら、誰がこいつを止めるんじゃ!?」


「ガァァァァァァァ! コロスコロスコロス!」


ブルーオーガは傷を負いながらも、すぐに自己回復していく。

これが上位種の厄介なところじゃ。

元々の防御力も高いので、倒すには強烈な一撃が必要になる。


「ほれ! くるぞ! 皆の者は下がってろ!」


「ジャマヲスルナ!」


オーガの拳とワシの金剛棒がぶつかり、激しい爆発音をならす。

どうにか相手を押し返すが、腕が痺れてきた。


「グヌゥ……!」


「ぜぇ……ぜぇ……ここは通さん」


ワシが一歩でも引けば、後ろにいる冒険者達が殺される。

それこそ、紙切れのように千切れてしまうじゃろう。

何より、こいつを都市にやるわけにはいかん。


「ギルマスを助けろ! 総員! 魔法発動!」


「ガァァァァァ!」


ブルーオーガが咆哮し、その振動でほとんどの魔法をかき消し足止め程度にしかならない。

これも厄介で、奴を仕留めるなら消されない強力な魔法も必要じゃ。

魔法か物理、どちらかに特化した冒険者がいれば……ワシが全盛期だったら。

いや、あの頃の仲間達がいたなら。


「……未練じゃな。そもそも、アレがあったからワシはギルマスを目指したんじゃ」


「ギルマス?」


「お主ら気合いを入れるんじゃ! 新人冒険者や都市の人々を守るぞい!」


「「「はい!!!」」」


とはいえ、分が悪い。

ここには最高で、数名の鋼級冒険者しかおらん。

そもそも辺境は新人育成の場と言われるほど、魔物や魔獣のランクは高くない。

こういった特例もなくはないが、それを防ぐのがギルマスの役目でもある。

ギルマスの最低限の資格は、元銀冒険者以上と決まっているからじゃ。


「だが、怪我をした今のワシには銀級の力はない……また、ワシは守ることが出来んのか。あの時死ぬほど後悔して、新人を死なせないためにギルマスになったというのに」


「い、いえ! ギルマスのおかげで新人の死亡率は下がっております!」


「そうですぞ! 新人を指導する仕組みや、西にある森には無闇に近づかないようにしたり!」


「テイマー協会との融和を図ったのもギルマスじゃないですか!」


「お主達……」


確かに、昔の仲間は雪山の方の危険な森で死んだ。

当時はまだ規制も緩く、新人が行ったりすることができた……そして奴のように死ぬ。

ワシは、そのことを悔やんだ。

だから、そのために様々な政策を実施してきた。


「ギルマスを死なせるわけにはいかん!」


「俺たちで何とか食い止めるぞ!」


「よ、よすんじゃ! お主らでは勝てん!」


またワシは、有望な若者を死なせてしまうのか?

ワシらが追放してしまったばかりに、死なせてしまったのように。

そう思ったその瞬間、一陣の風を感じた。


「若い芽を摘むんじゃない」


「ガァァァァ!?」


その風の主は、何とブルーオーガを飛び蹴りをしてぶっ飛ばしたではないか、


そんな者がこの辺境にいるなど聞いておらん。


そして、その者が振り向いた時……ワシは夢でも見てるかと思ってしまう。


それは、亡き友の面影を残していたからじゃ。



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