第40話 ギルマスの正体
そのまま走り続け、四時間ほどで辺境都市付近の森へと到着する。
本当なら一日半かかるので、かなりに速いだろう。
「さて……サクヤ、よく付いてきた」
「ハフハフ……アォン!」
氷を応用したしたとはいえ、俺の全力について来られるようになったのか。
やはり、山を降りたことは正解だった。
試行錯誤をするからか、成長速度が速い。
「だが、その疲れでは戦えまい。その代わり、お前にはアルルを預ける。ここで俺たちの帰りを待ちつつ、アルルを守ってくれ」
「ククーン……アォン!」
どうやら、今の自分の状態を冷静に判断できたらしい。
逃げるだけなら、今のサクヤでも容易い。
そもそも、敵に見つからない優秀なハンターでもある。
すると、アルルが俺の服を掴む。
「お、お父さん……帰ってくる?」
「ああ、もちろんさ。さっさと倒して、アルルのところに帰ってくる」
「や、約束!」
「ああ、約束だ」
最後に頭を撫でたら、カイトとカエデと顔を見合わせる。
そして頷き、三人で森の中へと入っていくのだった。
◇
くそっ! ワシとしたことが!
まさか、ブルーオーガ如きに手こずるとは……!
ワシが全力さえ出せれば、こんな奴は敵ではないというのに!
「ギルマス! 下がってください! もう二日間も戦い続けているのですよ!」
「ええい! ワシが下がったら、誰がこいつを止めるんじゃ!?」
「ガァァァァァァァ! コロスコロスコロス!」
ブルーオーガは傷を負いながらも、すぐに自己回復していく。
これが上位種の厄介なところじゃ。
元々の防御力も高いので、倒すには強烈な一撃が必要になる。
「ほれ! くるぞ! 皆の者は下がってろ!」
「ジャマヲスルナ!」
オーガの拳とワシの金剛棒がぶつかり、激しい爆発音をならす。
どうにか相手を押し返すが、腕が痺れてきた。
「グヌゥ……!」
「ぜぇ……ぜぇ……ここは通さん」
ワシが一歩でも引けば、後ろにいる冒険者達が殺される。
それこそ、紙切れのように千切れてしまうじゃろう。
何より、こいつを都市にやるわけにはいかん。
「ギルマスを助けろ! 総員! 魔法発動!」
「ガァァァァァ!」
ブルーオーガが咆哮し、その振動でほとんどの魔法をかき消し足止め程度にしかならない。
これも厄介で、奴を仕留めるなら消されない強力な魔法も必要じゃ。
魔法か物理、どちらかに特化した冒険者がいれば……ワシが全盛期だったら。
いや、あの頃の仲間達がいたなら。
「……未練じゃな。そもそも、アレがあったからワシはギルマスを目指したんじゃ」
「ギルマス?」
「お主ら気合いを入れるんじゃ! 新人冒険者や都市の人々を守るぞい!」
「「「はい!!!」」」
とはいえ、分が悪い。
ここには最高で、数名の鋼級冒険者しかおらん。
そもそも辺境は新人育成の場と言われるほど、魔物や魔獣のランクは高くない。
こういった特例もなくはないが、それを防ぐのがギルマスの役目でもある。
ギルマスの最低限の資格は、元銀冒険者以上と決まっているからじゃ。
「だが、怪我をした今のワシには銀級の力はない……また、ワシは守ることが出来んのか。あの時死ぬほど後悔して、新人を死なせないためにギルマスになったというのに」
「い、いえ! ギルマスのおかげで新人の死亡率は下がっております!」
「そうですぞ! 新人を指導する仕組みや、西にある森には無闇に近づかないようにしたり!」
「テイマー協会との融和を図ったのもギルマスじゃないですか!」
「お主達……」
確かに、昔の仲間は雪山の方の危険な森で死んだ。
当時はまだ規制も緩く、新人が行ったりすることができた……そして奴のように死ぬ。
ワシは、そのことを悔やんだ。
だから、そのために様々な政策を実施してきた。
「ギルマスを死なせるわけにはいかん!」
「俺たちで何とか食い止めるぞ!」
「よ、よすんじゃ! お主らでは勝てん!」
またワシは、有望な若者を死なせてしまうのか?
ワシらが追放してしまったばかりに、死なせてしまったハルトのように。
そう思ったその瞬間、一陣の風を感じた。
「若い芽を摘むんじゃない」
「ガァァァァ!?」
その風の主は、何とブルーオーガを飛び蹴りをしてぶっ飛ばしたではないか、
そんな者がこの辺境にいるなど聞いておらん。
そして、その者が振り向いた時……ワシは夢でも見てるかと思ってしまう。
それは、亡き友の面影を残していたからじゃ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます