第39話 事件

午後にも調査をし、他の冒険者の話を聞いた。


結果的に、皆同じような感じだったらしい。


なので翌日の朝、俺達は一度都市に戻ることにした。


「報告としては何もないということだが、何だか嫌な予感がする」


「そうだよなぁ、逆に不気味だし」


「私もそう思う。とにかく、一度報告に戻らなきゃ」


すると、門の向こうから誰かが走ってくる。

それは、以前会ったことがあるランドと一緒にいたラーラだった。

息を切らしていて、尋常じゃない様子だ。


「はぁ、はぁ……つ、着いた」


「おい、ラーラじゃないか」


「一人で危ないじゃない。あれ? 他の冒険者は?」


俺達が近寄ると、ラーラが二人に気づく。


「あれ? カイトさんにカエデさん!? よ、良かった! 実は……あっ」


「しっかりしろ。ほら、まずは水を飲むんだ」


「あ、ありがとうございます……コクコク……」


倒れそうになったラーラを受け止め、まずは水筒で水を飲ませた。


「もう一回飲みなさい」


「はい……貴方はハルトさん? どうしてここに?」


「それは後にしよう。まずは、何があったか聞かせてほしい」


「そ、そうなんです! 辺境都市の初心者の森にブルーオーガが現れたんです! それのせいで、魔他の魔物や魔獣も暴れ出して大変なんです!」


「……何だと?」


俺も思わず息を飲む。

ブルーオーガ、それはオーガの上位種の存在。

通常のオーガが鋼級から銀級だとして、ブルーは確実に銀級とされる魔物だ。

銀級冒険者が数名で戦って、ようやく勝てる相手だとか。


「それって、やばいよな?」


「当たり前じゃない! 初心者の森には石級か鉄級しか行かないのよ!?」


「そ、そうなんです! 私は他の冒険者と組んでて、その時に出会ってしまって……そこを調査に来ていたギルドマスターが助けてくれたんです。ただ怪我をしてしまい、こちらのギルドにも救援要請をお願いに……今は鋼級の人達が交代で足止めをしてるはずです」


「ブルーオーガと唯一戦えるギルドマスターが負傷したか。そうなると、まずいな……よし、すぐに向かおう」


「牛鬼を倒せるハルトさんなら力になれるかと! では、私はこのままギルドに向かいます!」


そうして、門の中へと駆けて行った。

俺は頭の中で一度だけ悩み……二人に問いかけることにした。


「さて、二人はどうする?」


「そりゃ、行きたいさ!」


「もちろん、私も。でも、兄さんの速さにはついていけないし」


この子達には、俺の本気を見せたことはない。

ブルーオーガ相手なら、ある程度本気を出しても良いだろう。

そして師匠がそうだったように、俺も戦いを見せることで弟子の成長を促さなくては。


「わかった、それだけ聞ければ十分だ。ただ、そうなるとアルルとサクヤか……流石に二人だけを置いてくのは危険だな」


「アォン!」


「サクヤちゃんが、なめるなって……お父さんの全力についていくから足手纏い扱いするなって」


「ほう? ……わかった、ならばついてこい」


「グルッ!」


「では全員で行こう」


そして走る準備を整えた。

俺の背中にはカイトがしがみつき、カエデをお姫様抱っこして、そのカエデが更にアルルを抱きかかえる。

サクヤは身軽な状態で、俺について来させる形だ。


「セシリア姉さんを差し置いていいのかな?」


「ん? どういう意味だ? あの子も抱っこしてほしいのか?」


「あぁー……して欲しいけど、したら失神しそうだからやめてあげてね」


「よくわからんが……まあ、いい。ともかく、急ぐとしよう」


大地から気を取り込み丹田に溜める。

その気を全身へと解放し、気力を充実させた。

そして、全力疾走で走り出す!


「うげぇ……速っ!」


「一瞬で景色が変わってる……!」


「わぁ……! すごいすごい!」


さて、サクヤはどうだ?

振り返ると、サクヤが付いてきていた。

しかも、普段とは違う走り方で。

何と自分の目の前に氷の道を作り、そこを滑るように走っていた。


「ほう、考えたな。それなら、体力もそこまで使わない。何より、めちゃくちゃ速いな」


「アォン!」


「サクヤちゃん、爪を使って滑ってるみたい! いいなー!」


「じゃあ、今度サクヤに氷を貼ってもらうか」


そういえば、ヨルさんも雪山で似たようなことしてたな。


自分の爪を使って、器用に止まったり加速したりと。


師匠はそれをみて、スキーかスノボみたいだなとか言ってた気がする。





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