第38話 推測
たっぷり遊んだ次の日、朝食を済ませた俺達は街の外に出る。
昨日聞いた話を元に、周辺を散策する作戦だ。
幸いにして、こっちには機動力に優れたメンバーが多い。
俺は仙気により、二人は身体能力の高い獣人、サクヤは高位魔獣だ。
「それでは、俺はアルルを抱っこして行こう。サクヤは単独で、何かあればアルルに念を送れ。カエデとカイトは二人で動いて……すまん、俺が指示を出してはいかんな」
「ううん、今は兄さんがお願い」
「オレ達、まだまだ自分が未熟だってわかったからさ」
「そうか……いや、俺とてまだ冒険者として未熟だ。お互いに意見を出し合って協力しよう」
「「はい!!」」
門の端に寄り、少しだけ意見交換をする。
「兄さんは何があっても平気だから一人ね。アルルがいたとしても、逃げるだけなら問題ないし」
「んじゃ、外周より遠い場所がいいかも」
「うん、そうよね。私たちはまだ弱いから、比較的街に近い外周部分を散策かな」
二人からの視線受けたので軽く頷く。
「ああ、それでいい。そして森の部分はサクヤに担当させようと思う。調査をするだけなら、一人の方がいいはずだ。それに何か異変があれば、アルルに知らせがいくしな」
「アォン!」
「えへへ、サクヤちゃん張り切ってるみたい」
「よし、決まりだな。昼頃には、一度ここに戻ってくること」
軽い打ち合わせを済ませたら、それぞれ別行動を始める。
俺はアルルを片手に抱え、国境側の方に向けて駆け出す。
風を切り、あっという間に街が小さくなっていく。
「わぁーい!」
「おっ、楽しいか?」
「うん! あと……お父さんと二人きりだもん! あっ、みんなといるのが嫌ってわけじゃなくて!」
「わかってるから平気さ」
カイトやカエデもそうだった。
小さい頃、俺と二人になると喜んで甘えてきたっけ。
多分、独り占めできるのが嬉しいのだろう。
「う、うん……あのね、遊具も楽しかったの」
「じゃあ、また行くとしよう」
「ほんと? やったぁ!」
その顔からは遠慮が消えていた。
少しずつだが、自分の意志というものが出て来たかもしれない。
これも、カイトとカエデの提案のおかげだな。
「他には、何かしたいことあるか?」
「んー……魔法を覚えたい」
「ほう? ……どうしてだ? 俺の力になりたいっていうのは聞いたが、他にもあったりするのか?」
「それもあるんだけど……わたし、自分に自信がないから。その弱い自分から抜け出したいなって。魔法を覚えられたからって、それがなくなるかわかんないけど……」
俺はアルルを抱きしめる力を少しだけ強める。
この子は、俺なんかより立派だ。
自分の弱さに気づけたのだから。
「わかった。お父さんの方で魔法を教えられる人を探そう」
「ほんと? あ、ありがと!」
「ああ、任せろ」
俺の知る限りでは、魔法に一番詳しいのはエルフのリーナだったか。
もし見つけたら、頭を下げてても頼むとしよう。
その後、探索を続けるが……特に異常は見当たらなかった。
予定通りに門に戻ると、俺達以外の全員が揃っていた。
「ひとまず、全員無事でよかったな。見たところ、戦いはしてないか?」
「うん、そうね。見ての通り、私たちは戦闘もしてないわ。兄さんならいざ知らず、無傷ってわけにはいかないし」
「俺の方も特になかったな。サクヤの方はどうだ? アルル、詳しい話を聞いてやってくれ」
「グルルッ……グル」
「ふんふん」
そのまま待っていると……話が終わったようだ。
「えっと……森の様子が変だったって」
「変?」
「森の奥には魔獣の食べかけや魔物の死骸とかあったって。まるで、何かが通り過ぎたみたいに。それが、西の方角に向かったって。腐敗の匂いから数日は経ってるみたい」
「西の方角……そこには辺境都市があるな」
辺境都市付近の森の異変、ユナイテッド街付近の異変、そして国境付近にてオーガか。
……何やら無関係とは思えん。
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