第37話 お礼の料理
夕方までたっぷり遊んだら、カイトとカエデの案内で歩く。
大通りにある路地裏に入り、その通りにある一軒の建物に入る。
これは、知っていなければ見つけるのは難しいだろう。
中は意外と広く、テーブル席がいくつかある。
すると店員さんが気づいて、こちらに向かってきた。
「いらっしゃっい……あれ! カイトさんにカエデさんじゃないですか!」
「おう、ランド、元気そうじゃんか」
「相変わらず、お店を手伝ってるのね」
……ランド? 何処かで見たことあるような少年だな。
そうか、あの時に助けた少年か。
ランドと目が合うと、あちらもこちらに気づく。
「貴方は!? その雪豹を連れているということは……」
「やあ、少年よ。そうか、カエデとカイトの知り合いだったのか」
「あれ? にいちゃんも知り合い?」
「まあまあ、まずは座りましょう。ランド、案内してちょうだい」
ひとまず話を終え、まずは四人席に案内される。
テーブルも広く席も広いので、サクヤはテーの下で伏せをした。
「それで、どういう関係だ? ちなみに俺は、彼がコボルトソルジャーと戦ってる時に手助けをしたんだ」
「そうだったんだ。オレとランドは、何回か一緒に依頼を受けた仲だよ」
「それこそ、相方であるラーラもね。四人で依頼を受けたりもしたわ」
「なるほど、世間は狭いな」
すると、お冷やを持ったランドがやってくる。
「いやー、驚きましたよ。まさか、カイトさん達とハルトさんが知り合いだったなんて。そういえば、最強の師匠がいるって……そっか、ハルトさんだったんだ」
「おいおい、ここでも言ってるのか?」
この分だと、先に出ていった弟子達もあちこちで言ってそうだ。
……早く昇格して、旅をしなくてはいけない。
「へへっ、ごめんごめん。ただ、戦いを見たお前ならわかるだろ?」
「確かにコボルトソルジャーを瞬殺したり、牛鬼の突進を止めたりと……普通じゃなかったですね」
「だろ? しかも、それでも本気じゃないぜ。にいちゃんが本気を出せば、ドラゴンだって目じゃない」
「いやいや、それは言い過ぎですって。ドラゴンって、白銀級冒険者じゃないと相手にならないって話ですよ」
「いや、だから……」
「カイト、すまんが先に注文をいいか?」
「あっ……そうだった。いつものを、四人前よろしく頼む。サクヤには骨つきロースト肉で」
そして、ランドが一度下がったのを確認し……カイトに厳しい目を向ける。
流石に、これは言わなければならない。
「カイト、ガルザーク様の話はダメだ。あそこにいる彼の方は静かに暮らしたいのだ。俺がドラゴンと戦ったなどと言ったら、何処でという話になる」
「ご、ごめんよ。少し自慢したくて……」
「それは嬉しい。ただ、彼の方と盟約を結んたとはいえ、俺は勝ってなどいない。あくまでも、認めてもらった程度だ」
秘境を出る前に一度戦ったが、合格点はもらえた。
ただし、とてもじゃないが勝ったなど思わない。
彼の方は本気を出してはいなかったのだから。
なにせ、師匠と互角の方だ。
「ほんと、調子いいんだから」
「ねーねー、なんの話?」
「後でサクヤから聞くといい。なにせ、サクヤの遊び相手でもあったし」
というよりは、遊ばれていたが正解か。
雪山においてヨルさんと双璧を成す氷龍バルザーク様、ヨルさんの友人でもあり娘のサクヤも気にかけてもらっていた。
そもそもが師匠の目的がドラゴンと戦うことで、そこで縁が出来たとか何とか。
「そうなの?」
「アォン……」
「ふぇ? 頭が上がらないから会いたくないって……」
「ははっ! そうだろうな!」
そこからは話せる範囲内でアルルの質問に答える。
そして数分後、ランドがお皿を持ってやってきた。
目の前に置かれ、その姿に驚く。
何やら麺料理ではありそうだが……見たことがない。
「これはなんだ?」
「へへっ、にいちゃんでも知らないものあった」
「それよね。やっと、鼻を開かせたわ」
「おいおい、俺なんて知らないことだらけさ。ともかく、説明をお願いできるだろうか?」
俺の問いに、ランドが嬉しそうに頷く。
ただ一つ思ったのは……説明を受ける前に食べたかったかもしれない。
先程から、ニンニクの強烈な香りが鼻腔をくすぐる。
「はい、こちらはパスタという料理の麺類です。遥か西の大陸から伝わった料理で、様々な食材の出汁や素材の味をモチモチの麺と絡めて食べる料理ですよ」
「なるほど……これは師匠も知らなかった料理だな」
「どなたかわかりませんが、本当に小さい国の伝統料理だとか。父はたまたま行き倒れの人を救い、その方からお礼の一つして教わったとか」
「ふむふむ……では、有り難く頂くとしよう」
「はい、ごゆっくりどうぞ」
ランドが下がるのを待ち、皆で皆でパスタというものを食べる。
「むっ……! これは!」
「辛い? でも、美味しいかも!」
確かにアルルのいう通り辛い。
ただそれは、ほんのりと香る程度の絶妙な唐辛子の辛さ。
ベーコンの旨味とニンニクの旨味という、単純な味付けだというのに深い味わい。
これは、料理人の腕が試される料理だと直感する。
「美味い……癖になるな。二人とも、良い店を紹介してくれてありがとう」
「やったぜ!」
「やっと少しだけ恩を返せたわね」
「ん? なんの話だ?」
二人が顔を見合わせて、照れ臭そうに微笑む。
「いや、兄さんにはお世話になってばかりだったでしょ? 里を出た時に、カイトと約束したの。何か一つでいいから、兄さんの喜びそうなものを探そって」
「んで、にいちゃんの好きな物って何かなって話になったんだ。物でも良かったんだけど、にいちゃんは食べ歩きができないのが里で唯一辛いって言ってたからさ」
「だから、二人で時間を割いて食べ物屋さんを回ってたのよ。そしたら、ここに里で食べたことない料理があったから」
「これなら、にいちゃんも喜ぶかなって思って」
その瞬間、俺は身を乗り出し二人を抱きしめる。
行儀が悪かろうが関係ない。
「に、にいちゃん?」
「は、恥ずかしいって……」
「ありがとう、二人共」
「で、でも、そんなに大したものじゃないし」
「そ、そうよ。嬉しいけど……これでいいのかなって悩んだもん」
「それが嬉しいのではないか」
別に何をもらっても嬉しいだろう。
ただそれ以上に、俺のことを思って考えてくれたことが嬉しい。
あのいたずらっ子だった二人が……いかん、泣きそうだ。
「へへっ、それなら良かった」
「そ、そうね……」
すると、二人もそっと抱きしめ返してくれるのだった。
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