第24話 みんなで調理

その後、解体を済ませた頃……タイミング良く皆が戻ってきた。


「おっ、お帰り」


「「「ただいま!!!」」」


「アォン!」


様子を見るに、アルルもサクヤも楽しかったようだ。

俺がいない方が、できる会話もあるだろう。

心配だが……あまり過保護すぎても良くないよなぁ。


「よし、それじゃ仕込みと行こうか。カエデ、カイト、手伝ってくれるか?」


「おうよ!」


「もちろん」


「サクヤはアルルの相手を……どうした?」


アルルがトコトコと、俺の元にやってくる。

そして服の端を掴んで上目遣いをしてきた。


「アルルちゃん、頑張って」


「ほら、さっき言ったろ」


どうやら、何やら二人に入れ知恵されたらしい。

俺は焦らず、大人しくアルルが話すのを待つ。


「え、えっと……わたしもお手伝いしたい!」


「なるほど、そういうことか。しかし、まだ七歳だしな……無理はしなくて良いんだぞ?」


「で、できるもん! わたしだって、お父さんの役に立ちたい!」


「アルル……おおっ……」


「お、お父さん!?」


俺は感動のあまり、膝をつく。

俺のために手伝いたいというのか。

同時に、巣立った子達のことも思い出される。

あの子達も、似たようなことを言ってくれたなと。


「いや、すまんな。そういうことなら手伝ってもらおう」


「わぁい! 頑張る!」


「ただ、危ないから……カエデ、見てやってくれるか?」


「もちろんよ。それが、私がお姉ちゃん達にしてもらったことだし。私だって、ああいうのには憧れていたんだから」


カエデが、少し恥ずかしそうにそっぽを向く。

やはり、お姉さんに憧れがあったらしい。


「カイトは、サクヤに遊んでもらえ」


「逆じゃね!?」


「アォン!」


「んなろ……やったろうじゃん!」


サクヤが、カイトの尻を尻尾で叩いた。

その顔は仕方ないから遊んであげると書いてある。

そして、二人は端っこの方でじゃれ合う。

それを微笑ましく見つつ、仕込みに入ることにした。


「お父さん、何を作るの?」


「折角、牛系の魔獣が手に入ったしな」


「兄さん、私はアレが食べたいかなー」


「ん? ……ああ、アレか。確かに良い肉なら、アレが良いかもな」


素材を活かすなら、あの調理法が適している。

何より、アレは良い肉でないと良さが出ない。


「アレ?」


「アルルちゃん、楽しみにしてなさい。きっと、美味しいから」


「うん! わかった!」


「それじゃ、カエデ。いつもの付け合わせを作るから、下ごしらえを頼む」


「アルルちゃん、私とお手伝いしよっか」


「するー!」


アルルをカエデに任せ、俺も調理台にて仕込みには入る。

解体した肉のうち、今日はモモの部分を使う。

塩胡椒、各種スパイス系を揉み込む。

すると、隣にいるアルルが覗いてくる。


「お父さん、何をすれば良いの?」


「アルルは玉ねぎを切ってくれるか?」


「や、やってみる!」


両手の拳を握り、フンスフンスと気合を入れている。

本人は本気なので、笑いを堪えて作業を見守ることに。

カエデが後ろからアルルの手を取り、包丁で玉ねぎを切っていく。


「うぅ……目が染みるよ〜涙が出そうだよぉ」


「そんなに手元を見なくても大丈夫。視線を前に向けて、まぶたの下に玉ねぎが映るくらいで良いよ」


「や、やってみます」


懐かしいな。

カエデがアルルくらいの時も、こうやってお姉さん方に教えてもらっていた。

あの小さかったカエデが……大きくなって。


「グスッ……」


「なんで兄さんが泣くの!?」


「お、お父さん、目に入った?」


「い、いや、違うんだ。すまん、何でもない」


カエデの小さい頃を思い出して泣きそうになったとは言えん。

その後、アルルが切った玉ねぎを肉にペタペタと貼り付ける。


「お父さん、それは何してるの?」


「こうすると肉が柔らかくなるんだぞ」


「何でー?」


「詳しいことはわからないが、師匠が酵素がどうとか言ってたな。それが肉の繊維を分解して、硬くなるのを防ぐとか」


すると、アルルの顔が??に染まる。

まあ、俺もほとんどわかってないから仕方のないことだ。

師匠は世界中を旅したからか、色々な調理法を知っていたからな。


「ともかく、そういうものらしい」


「ふーん……お父さん物知り!」


「ははっ、師匠の受け売りさ。よし、どんどんやっていこう」


その後、かぼちゃを湯煎にて柔らかくする。

その間に残った玉ねぎをフライパンで炒めていく。

後は色がつくまでじっくりと待つだけだ。


「これでスープの下準備は出来たか。じゃあ、アルルは玉ねぎが焦げないように見ててくれ。カエデは、サラダを頼む」


「任せて」


「うん!」


これなら簡単だし、それでいて重要な仕事だ。

まずは簡単なことから、徐々にやらせていこう。

その頃には肉の漬け時間が終わったので、フランパンで中火で焼き目をつけていく。


「途中でバターを入れてと……溶かした油とバターを肉にかける感じで」


そのまま面と裏をそれぞれ四分ほど、両方の片面を二分ほど焼く。

後は釜に入れて、十五分経てば下準備完了だ。

これで、ほぼ下準備は整ったので休憩を取る。

折角の貸切なので、全員で飲み物を用意して、乾杯することにした。


「改めて、カイト、カエデ……娘になったアルルの紹介と、二人との再会に乾杯」


「「乾杯!」」


「アォン!」


「か、かんぱい!」


 四人でグラスを合わせ、それぞれ飲み物を飲む。

その後は、お互いの近況報告などに花を咲かせる。


「へへっ、オレ達鉄級冒険者になったぜ!」


「一年経っても鉄級止まりで情けないんだけどね。ちょっと、鍛錬に時間をかけちゃった」


「何を言う、立派なものさ……よく、生きててくれた。それに、慎重なのは悪いことじゃない」


 冒険者登録は成人である十五歳から。

 その十五歳の子が登録をして、一年間生存する確率は高くない。

 その中で石級を超えて、鉄級になったら上等だろう。

 何せ、当時の俺は鉄級止まりだった。

ちなみに新人を抜けたと認められた銅級になると、ギルドカードを見せるだけで国境を越えられる。


「に、にいちゃんに褒められると照れるぜ」


「ほら、だから言ったじゃん。きっと、焦らずにやる方がいいって」


「わ、わかったよ、お前が正しかった」


 ……カイトにはカエデをつけて正解だったか。

 少し考えなしな部分があるから心配だったが。

 その分を慎重なカエデが補ってくれたようだ。

 無論、逆も然りだ。


「相変わらず、仲が良いな」


「は、はぁ!? 仲良くないし! このガサツ女なんかと!」


「……ぶっ飛ばす!」


「わぁー! 悪かったって!」


「……くく、またアルルが見てるぞ?」


 俺の言葉に二人は縮こまるが、懐かしいやり取りに思わず笑みがこぼれてしまう。

 二人は同い年で同時期に拾われたので、本当に双子の兄妹のような関係だ。

 お調子者のカイトを、いつもこんな風にカエデが突っ込みを入れてたっけ。


「ほら、アンタのせいで笑われたじゃない」


「えっ!? オレのせいなの!?」


「すまんすまん、つい懐かしくてな。しかし、本当に奢りで良かったのか?」


 調理器具やスペース共に広く、夜まで貸切なのでかなりの値段だろう。

 俺が出すつもりでいたが、先に二人に奢らせてと言われてしまった。

 嬉しいが少し寂しいのが本音だ。


「いいんだ! 世話になったにいちゃんにお礼をするために頑張ったんだから!」


「そうだよ、兄さん。私達、頑張ったんだから。兄さんや父さん達に恥じないようにって。再会の日まで、二人で生きていくって……」


 その言葉に込められた意味をわからない俺ではない。

 出て行くときに、二人は自分達で生きていく術を身につけると言っていた。

 孤児である二人が、この部屋を奢れるということは……そういうことだろう。

 俺は昔のように、二人の頭を優しく撫でる。


「へへっ、少し照れくさいや」


「ほ、ほんとよ……私は別にいらなかったんたけど」


「まあ、そう言うな。可愛い妹と弟が立派になって嬉しいんだよ」


「むぅ……仕方ないわね」


 すると、カイトがニヤッと笑う。

 この時点で、俺には何か起きるかわかった。


「おいおい、嘘言えって。出て行った時、兄さん兄さんって泣いてたの誰だよ?」


「っ〜! アンタは殺す!」


「ぎゃァァァァ!? やめてェェェ!」


「アォン!」


「お前もかァァァァ!?」


 カイトが、カエデとサクヤにボロボロにされていく。

 こんな光景を見るのも、一年ぶり以上か。

 やれやれ、部屋を貸切でよかった。


「アルル、騒がしくてすまん」


「う、ううん! こんなに賑やかなの初めてで……よくわかんないけど、見てるとポワポワしてくるの」


「そうか、ならいいが……」


「た。ただ、わたしはどうしたら良いのかな……」


 そう言い、オロオロとしだす。

 どうやら仲間に入りたいけど、やり方がわからないといったところか。

 それを見て、俺はアルルの背中を優しく押してあげる。


「わわっ……」


「ほら、行ってごらん。大丈夫、二人とも優しい子だから」


「う、うん……!」


 そうしてタタッと、その輪の中に入っていく。


 俺はそれを眺めながら酒を飲み……こんなにいい肴はないと思うのだった。









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